今、スペインのスポーツ界は乗りに乗っている。
おかげですっかりスポーツ観戦三昧(ただしテレビ前、ですが)の日々をすごした。
まずは、サッカー。 44年ぶり2度目の欧州カップ優勝。
今までどこか危うさがあり、勝つだろうと思われている試合にもなんとなく押切られて負けるというパターンが重なり、「決勝リーグ進出どまり」「永遠のベストエイト」などと揶揄されていたスペイン・ナショナルチームだが、今年は違った。
決勝トーナメント前のブロックでのリーグ戦でもいつもの危うさがなく、決勝リーグに入ってからも強豪を相手に安定したパス展開と粘り強さ、落ち着き、積極的な攻撃など総合的な強さを見せた。
私は特にサッカーファンではないけれど、ワールドカップや欧州リーグなどはかなり一生懸命に見る性質だ。 長年スペイン代表を見続けているけれど、こんなに「もしかしたら、いいところまでいくんじゃない?」と思わせてくれたチームは初めて見た。 テレビ放映権を持つチャンネルが今回の欧州カップのキャンペーンに使った「ポデモス」(われわれにはできるんだ!)というキャッチフレーズ。 最初は今までの自身のなさと「大丈夫かなぁ」という不信感が表現されたように聞こえたが、チームが勝ち進むにつれてだんだんそれが確信になっていったのは面白い大衆心理だったと思う。
決勝戦は野次馬根性マドリードのセントロのバルで観戦。 数時間前からセントロにはスペインチームの赤いTシャツや国旗をマントにした人たちでごった返し、遠くから見ると巨大な広場や通りが一面真っ赤に見えるほど。 テレビのコメンテーターか誰かが言っていたけれどこの現象は「きっと、みんな、何かにつながっていたいんだろうね」そうなのかもしれない。 みんなが酔いしれた、酔わせてくれた欧州カップ最終日6月29日。
そしてその興奮もまだ覚めやらぬ7月6日。
テニス、ウインブルドン決勝戦。雨天のために中断され5時間近くにもおよぶ長丁場の試合。 翌日の各新聞がセンセーショナルに史上最高の試合と書きたてたその評に違わず、最高のエンターテイメントでテニス界トップのライバル同士が酔わせてくれた。
エレガントさとテクニックで巧いテニスをするロジャー・フェデラー、ストレートな強さで真正面から攻めるラファ・ナダル。最初はナダルが2セット連取し、意外と簡単に覇者となるかとも思われたが世界ランキング・ナンバー1のフェデラーはそう簡単に敗れる相手ではない。 危機に陥ってもすばらしいファーストサーブを決める強さ。 接戦に次ぐ接戦が続き見ているほうも力が入る。 最終的にナダルがフェデラーを破り、初のウインブルドン制覇を果たした。 若干22歳。 まだまだ将来が楽しみな選手だ。
今年はフォーミュラ1のフェルナンド・アロンソが低迷しているけれど自転車レースのツール・ド・フランスでもスペイン人選手がトップ争いに名を連ねている。
このような選手の活躍はすばらしい、とてもすばらしいのだけれど、サッカー欧州カップ決勝戦の帰り道での出来事は残念だった。 メトロに降りると路上での興奮冷めやらぬ人たちがあちこちで騒いでいる。
私が乗ったメトロの車両では8人くらいの少年たちが「俺はスペイン人」という、応援フレーズ歌をメトロの車両の中で大合唱。 みんなが飛び跳ねるので、メトロの車両が揺れ、スピードは落ちる、途中で止まる、車両内の電気を壊しかける、の暴行一歩手前。 私の2人隣に座っていた明らかに移民と判別できる風貌の男性にそのグループの視線が届くと、その「俺はスペイン人」を数人の少年たちがいっせいに彼の耳元で叫びだし、絡んできた。
一人で大混雑の地下鉄に乗り込んでしまった私は「次に私に来るかも・・・」とひやひやしたが、幸いそこにはおよばず、移民の男性もじっと嵐が通り過ぎるのを待つように抗議をせず何事もなく嵐は過ぎ去った。
自国の選手がスポーツのような分野で世界的にクローズアップされると、にわかナショナリズムが沸きあがる。それは大いに歓迎すべきところも多いと思うが他者の努力に上乗りするだけ、他者を排除するような間違ったナショナリズムにはなってもらいたくないものだ、と思う。 今度はもうまもなくオリンピックが始まる。