ちょっと前のわたしたち

【No.306】9月4日 Norie * 【No.307】9月11日 かおる
【No.308】9月18日 Taka

No.308

9月18日 Taka (東京)

 「キャンセル待ちの成田―マドリード間の全区間の席がご用意できました」
というJALからの嬉しい知らせをもらったのは、スペイン行きを予定していた出発日の10日前。 そのさらに前日には、

 「いまさら席がとれたってもう仕事の調整なんかできないよ。 それに、もうとれっこない」

とぶーたれていた私。
でも、諦めモードから一転。 職場に飛んで行った。

「ずっと前から言ってたスペイン行きの件、あれ、もう10日後ですけど、大丈夫ですよね。 よろしく〜」

 やたら「ずっと前から」を強調して強行突破で交渉成立。 やったー! 久しぶりのスペインだ! というわけで、行ってきました。

 今回は、いや、今回も? じっくりと予定などたてられなかった。 とにかくわかっていることはマドリードでの離着陸。 そして、私のことだからきっとアンダルシアに南下するであろうということ、のみ。 だから、当然といえば当然ながら、全く無計画で行き当たりばったりの旅となったことは言うまでもなく……。

 マドリードを基点とし、いつものようにアンテケラ、マラガを巡り、そしてグラナダとトレドを加えた。 アンテケラとマラガには、それこそ10年来、仲良くしているスペイン人ファミリーがいる。 それぞれの家庭に突然、「いまマドリードにいるから」と電話をした私を「なんでもっと早く連絡しないんだ」と責めつつも、喜びの声をあげ、歓迎してくれたことには感謝感激。

「もちろん、うちに泊まるでしょ。 ここはTakaの家だから」

 という、お決まりのセリフも私には嬉しい。

「Takaがパエリアを食べたいって言うのはわかってるんだから」

 なんて言われながら翌日の昼食を約束。 し、か、し……。

「マドリードを羊が行進する?」

 9月9日、日曜日の午前から、マドリード中心地を、毎年恒例となっている祭り、羊飼いたちによる羊の行進(移牧の権利を主張するパレード)があると聞き、カメラを片手に早朝から待ち伏せ。 住民や観光客らがSolの道路脇を埋め尽くすなか、私も観客の一人として場所を陣取った。 今年のパレードは世界32カ国が参加したとあり、首都マドリードの中心地Solの街なかは異様な盛り上がりを見せた。Solを通る羊たち
     Solを通る羊たち
 1000匹にも及ぶ羊の群れと、各国の民族衣装を着た羊飼いたちのパレードは異様で面白い。 あ。 もちろん、羊の群れが去ったあとの通りには、彼らの落し物で地面も賑やかでしたよ……。

 まぁ、そんなこんなで羊のパレードに感激し、ふと時計を見るとすでにお昼。 グラナダとマラガの中間にあるアンテケラには飛行機で飛んでいってもとうてい昼食には間に合わない。 やばい。 南バスターミナルに駆け込みバスの時刻を調べると、げげげげげ。 移動に6時間もかかるじゃないか。 そのうえ、到着は8時45分。 もちろん夜のね。 これはまずいということで、慌てて電話。

「ごめん、夜につく!」

 すると、びっくり。

「そんなことはわかっているわよ。 マドリードから出る直通のバスは1日、2本しかないもの」

 じゃ、あの昼食の約束はなんだったんだ!?

 まぁ、そんなこんなで夜についた。 夜といっても、まだこの季節の9時なんて、夕暮れ時。 オリーブ畑を抜けて辿りついた友人の家で、久しぶりの再会を果たす。

 翌朝は友達にお願いして葡萄の収穫を観に、その友達の農家の畑へ出向いた。 一帯はマラガワイン(甘いマラガ産ワイン)の原料となる葡萄の産地で、バケツを片手に職人たちが収穫に汗していた。 この葡萄から、あの甘いワインが出来るのかと感慨深げに見ていると、「食べてみるとわかるよ」と声をかけられたので、実際に口に入れてみた。 これが旨い。 旨いなんてもんじゃないってくらいバカ旨! 強烈な甘みが口のなかいっぱいに広がる。 たまらない。 これまで食べたことのあるどんな葡萄よりも美味しかった。

 葡萄の収穫の帰りにはスーパーへ寄ってキャベツと豚肉を購入。 日本から運んだ3食入りの焼きそばを作るためだ。 粉のソースもついている。 ニンニクとピーマン、玉ねぎとキャベツ、そして豚肉を最初に炒めて軽く塩で調味。 そこに麺を入れ、ソースで味付け。 この味がスペイン人に合わないはずはない!と確信しながら作った。 そして案の定の大好評。 インスタントソースのおかげで私もブエナコシネラと呼ばれ、大喜び。 そして、彼らは口々に言った「メ グスタ ジャキソバ」と。

 さて。 私はスペインに何をしに行ったのか? マラガでも「ジャキソバ」を作って一緒に食べた。 結局、私の大好きなパエリアやアルボンディーガスは次回の旅までお預け。 でもね、まぁいい。 いつも、私のスーツケースの中は食材やおやつでいっぱい。 スペインに行くときには日本のもので。 日本に帰るときはスペインのもので。 私の知っているスペインの人たちに日本を好きになってもらいたい。 懐かしんでもらいたい。 私の知っている日本の人に、スペインを好きになってもらいたい。 もっと知ってもらいたい。 そんな“思い”でいっぱいの証。

 旅の行程を全部は書ききれない。 たったの一週間なのに、濃い、深い滞在ができた。 ユーロが高くてヤんなるよなんて嘆いても、やっぱりスペインはいいな。 スーパーのレジや肉屋の順番待ちで死ぬほど疲れても、それでもスペインはいい。 飛行機のフライト時間が長くても、それでも折り返したくなる。 また戻ろう! すぐ戻ろう。 そう決めた。

 そうそう。 マドリード最後の夜に行ったタブラオの前で、連れがひったくり未遂に合いました。やっぱり油断は大敵です! 皆さんもどうぞ気をつけて!ね。

 また、スペインでお世話になった皆さまには心からありがとうございました!

& Un beso!

※まだ全然まとまっていない状態ですが、とりいそぎ流し込んだフォトアルバムを紹介します。よかったら観てね!

 

No.307

9月11日 かおる (マドリード)

以前にも私が住んでいる通りのことを少し書いたことがある。 マドリードの市内なのだが、なんとなく田舎風で長屋が並ぶ通りなのだ。
家の前の道は歩道になっていて、車が通らない。 そして、中央には並木がある。 少し前まで、この通りに住んでいるのはおじいちゃん、おばあちゃんか、その子供夫婦という感じだったのが、ここ数年で少し様変わりをしてきた。 年老いた親が子供夫婦と同居のために引っ越すので、家を売り、新しい住人が入ってくる、というようなケースだ。

 そうやって売りに出ていた家を買って、2年ほど前に引っ越してきた若夫婦、アルベルトとアナは、なかなかおしゃれで、ガーデニング好き。 自分の家の前にある並木の根元に何度か花を植えては枯らせてしまったり、盗まれたり、ということを何度か続けていた。花壇
       通りの花壇
 が、ある日、もっと大きな決心をした。 並木が植わっている根元には50cm角くらいの土のスペースがあり、他はコンクリートの敷石で覆われている。 このスペースの土を植物栽培に適した土に入れ替えて、囲いをする、というものだ。 しかも、自分たちの自宅前だけでなく通り全体が花の通りになるように、というプラン。

 このプランを彼らが始めたときには、近所のおじいちゃん、おばあちゃんは言った。 「無理よ、すぐに盗まれちゃうし」でも、彼らは負けない。 「いいの。盗まれたらまた植えるだけよ。 こんなペチュニアなんて、1鉢1.5ユーロだもの」かくして、この「通りに花を植えましょう」プランが始まった。

 いざ、作業が始まると力仕事には参加しないものの、家の中から「これも植えましょうよ」と植物を持ってくるおばあちゃんやら、植えた後から水をやる子供やら、通りの住民が総参加することになり、通りには綺麗なミニ花壇が8個並んだ。

 さて、これは実は夏が始まる前のお話。
普段の水遣り当番は、斜め向かいに住む、耳が遠くてほとんど聞こえないマノロじいさん。 夏の間は不在者が多いので、私がほぼ毎日水やり当番。 そして、9月になると、またマノロじいさんが帰ってきて毎日水をやる日が続いている。 植えた最初はなんどか近所の心無い人に植えたての花を盗まれたりしたものだが、その後大きな問題もなく花壇は健在だ。 しかも、これを見た近くの長屋通りも同じようにかわいい花壇を作った。

 ちょっとした一つの決心から、心和むスペースができる。 そして、それを真似る人がいる。 なんだか、ちょっとバリオ(地区)の価値が上がったようにさえ感じられて誇らしい。

 そろそろ夏の暑さにちょっと疲れた花たちの植え替えをして、花壇の模様替えをしなくてはいけない時期になってきた。
秋の花壇、さてどんな花を植えようか。

No.306

9月4日 Norie (バリャドリード)

冷夏を通り越して、昼間でもなんだか初冬のような寒さを感じる日もあるこの頃。 スペインに戻ってきたばかりの頃は、カラッとした空気が気持ちよかったものの、まだもう少し息子の夏休みも残っているというのに、今年はとうとうプールにも海にも行けなかったのが心残り。 このまま長い冬に突入してしまうのだろうか。

 この夏休みは日本で過ごした。 動物園や水族館、アフリカンサファリ、温泉、映画、果てはカラオケまで、一年分を遊び尽くしたくらい、誰彼ともなくちびをいろんなところに連れ出してくれた。 どこに行っても、至れり尽くせりのサービス。 しかも迅速でバラエティに富む。 お金さえ出せば何でもすぐに手に入る。 なんてストレスの少ない生活。

 ちびもさぞかし日本が気に入っているだろう、と思ったのだが、滞在も二週間を過ぎるころから「ねぇママ、スペインのおうちに帰ろう。」と、ときどき言い出すようになった。 日本滞在中、ずっとそれは続き、最後には「スペインは楽しいよぉ。みーんなで行こう。」と周囲を誘うまでになった。

 そしてスペインに戻り、いつもの公園、いつものバール、いつもの友だち、いつものご近所さん。 流暢になった日本語の代わりに、すっかりスペイン語を忘れてしまっているちびではあるが、日本にいたときよりも、軽々とはね回っている。 彼にとっては、ここが故郷なんだわねぇとしみじみ思う。

 ここが故郷ではないわたしは、煮込み用の牛肉500グラムだけ買うのに30分かかったり、組み立て家具キットにビス一式がそっくり入ってなかったり、駐車場の切符販売機がいたずらされていて、普通に買ったのに違反金用の切符がでてきたりする度に「スペインに戻ってきたなぁ」と半ばあきらめるような気持ち。 バールのビール一杯も驚くほど高くなったしねぇ。 しかし、お気楽な生活であることには違いない。 まして、二つの国のどちらでも歓迎してもらえるのはとても幸せなことだ。

 さぁて、二ヶ月近く日本で遊んできたのに、まだ三週間以上夏休みが残っている幸せなちびにも、そろそろ本格的にスペイン語モードに入ってもらおう。 クラスメートもみんな、それぞれ大きくなって学校に戻ってくるのだろうな。 そして、わたしもたまった仕事の整理にとりかかろう。 スペインの空気の軽さは、人の気持ちまで軽くするなぁ。

 

 

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