Carmenのスペイン語こぼれ話
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9. セニョリータとお嬢様 |
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世間的にセンセイと呼ばれている私はこの時期忙しい。試験を実施しなければならないからだ。問題を作成し、配点を決め、試験監督をつとめたあとは採点が待っている。ああ、面倒だなぁ。でも、教えっぱなしでその成果を見ないなんてわけにはいかない。暑い日本の夏、なんとか採点を終えたらやっと私にもバカシオネスがやってくるのだ。 飲み物を傍らに置き、答案の束と格闘を始める。単調な仕事だ。今後の試験はマークシート方式にしたいな。でも答案の電算処理システムなんて個人で作れないしなぁ...などといつも同じ事を考えつつチンタラチンタラ仕事をするのでいっこうにはかどらない。それだけにたまにほとんど白紙に近い答案があったりすると、おお、採点の手間が省けるぅと思わずほっとしてしまう。こんな答案を提出する者がいるようではいけないのだけどね。 単調な採点作業に彩りを添えてくれる(?)のが珍回答のたぐい。今回も出ましたね。"Gracias, sen~orita Tanaka." という会話文の一部の訳を求めてみたら、「ありがとう、田中嬢」なんてのに出くわした。おいおい、話し言葉で「田中嬢」はないだろう。そんなツッコミを入れつつここまでは私も笑っていた。が、そのあとに「ありがとう、田中お嬢様」という答えが出てきたときにはずっこけた。田中お嬢様...そんな日本語ってあるのか。冴子お嬢様、とかならいざ知らず。それだって大豪邸の令嬢を婆やが呼ぶシチュエーションぐらいしか思いつかないセリフなのに、苗字の後ろに「お嬢様」をつけるなんて。それとも私が知らないだけで今時の日本語ではそんな言い方がアリなのだろうか?! その答案の束の採点を終えて、私は憮然としていた。外国語を絶対に苦手にしているはずがないこのクラスの受講生の中で「田中嬢」あるいは「田中お嬢様」と書いた者がそれぞれ数名いたという事実に。やっぱりこれって新しい日本語なのか? まさかね。(^^;;) スペイン語に限らず、外国語の上達を望むならまず母国語能力を高めるべし。これは私の持論なのだが、どうもこれからは学習者の日本語チェックまでしなければならないのかも。 外国語の文章の逐語訳を学習者に要求するとこの種の珍訳が頻発する。「Sen~or=〜氏」「sen~ora = 〜夫人」「sen~orita =〜嬢」という意味を知ると、逐語訳をするときにその意味をそのまま答案に書いてしまう学習者が少なからずいるのだ。「おはよう、ゴメス氏」「さようなら、夫人」など相当笑える日本語だ。実際の会話でそんな言い方はまずしないはずだが。 しかし、興味深いことに、この珍回答が見られるのは訳を書くように要求された場合がほとんどで、授業中、訳を口頭で要求するとたいていの学習者はちゃんと「おはよう、ゴメスさん」と訳すのだ。まれに口頭でも「おはよう、ゴメス氏」と言ってしまう者もいて、「ふぅん、相手の名前を呼ぶときにそんなものの言い方をするわけ?」と私のツッコミを受ける羽目になる。 ということはやはり文章を書き慣れていない人が多いということか。忠実な訳だけど日本語として変だということに気づくほど文章の推敲を経験していないのだろう。心当たりのある皆さん、今からでも遅くはない。日本語の文章力をもっとつけましょう。そうすれば外国語と日本語の違いや類似点がこれまで以上に見えてくるはず。 珍回答と言えば、もうずいぶん以前のことになるが、試験で白紙の答案を出した若者がいた。答案の余白に「スペイン語とかけて耳鼻科ととく。そのココロは? ムイ・ビエン(鼻炎)」と書き残して。言葉遊びをするセンスがあるならば語学なんてちょろいものだと思うけどね。で、どうしたかって? もちろん、座布団一枚取って...ではなく不合格にしたのは言うまでもない。世の中そんなに甘くはないのだ。(笑) Carmen |
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9. セニョリータとお嬢様 |
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