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第1回 絵画は「もの」である

その3           その1 その2

 知名度から言うと群を抜いている《ゲルニカ》、絵具の状態からするとこの作品ってすごいんだよね。 「すごい」っていうより「ひどい」って言ったほうがいいのかな。 画面をじぃぃっと見つめていると、画面上に奇妙なひび割れができているのが目につく。 一番目立つのは牡牛の首を横切るかのように水平方向にはいったやつ。 渇いた気候で肌が荒れるのと同様に、絵画だって手荒に扱えばひびが入るのである。 また、滅多に気付くことはないかもしれないけど、床に転がった死体の右目には直径数ミリの穴が開いている。

 こうした傷は、《ゲルニカ》が移送される際に巻き取られたことに原因がある。 ポスターを巻き取るかのようにグルグル巻き取られたのである。

 《ゲルニカ》は数え上げたらキリがないくらい西欧諸国を動き回った。 国だけ挙げてもフランス、イギリス、ノルウェー、ドイツ、スイス、デンマーク、イタリア、ブラジル、アメリカ合衆国、スペイン・・・。その移動の度に巻き取られたんだから、皺がよっても当たり前。ヒビが入ってても驚くことはない。 もうお肌はボロボロ。これも一種の名誉の負傷なんだろうな。

 別の絵画を見てみよう。先月、プラドに行って一番驚いたのはエル・ボスコの《快楽の園》だった。 去年修復が終わって、描かれた当時の鮮やかさを取り戻したのである。

 通常、油彩の表面には絵の具の乾燥を防ぐ目的で、ニスが塗られている。 これが時間が経つと黄色くくすんでくるもんだから、修復ではニスを取り除いて、新しいニスを塗り直すのである。 同じ修復がこの《快楽の園》にも施された。 結果は「驚きの白さ」! マジですごいって。 画面が輝いてるもん。 この差は同じ部屋に飾られている《干し草の車》と比べてみれば一目瞭然。 修復前がどれだけ黄色くくすんでしまっているかに気付くと愕然とするね。

 これから、同じような修復がゴヤの代表作とされる《カルロス四世の家族》と《五月二日》、《五月三日》にも施されることが議論されていると一ヶ月くらい前の新聞に出ていた。 気をつけてみると、確かに黄ばんでいる。 数年後にはこれもきれいになるのか。 印象も変わるんだろうなぁ。 って、今のうちに修復前の状態を見ておくと面白いですよ。修復後と比べてみたりして。

 ま、こんな風に絵画に描かれた内容ではなくて、絵画をモノとして見てみると意外な発見をすることがある。 たまには違った視点から美術作品を見てみるのも面白いかもしれませんよ。

2000年4月16日

 


関連ページ: ヴァン・ダイク《サティロスに驚かされるディアナとエンディミオン》の修復 (プラド美術館・公式ホームページ) http://museoprado.mcu.es/prado/html/exposicion14.html
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◆第4回 再現の難しさ
◆第5回 美術品の裏の世界
◆第6回 それ僕の!
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