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第7回 星へと続く道

 久しぶりの更新です。 半年ぶりか・・・。 うむむ。 忘れられてんじゃねぇだろうな。

 この半年間、学会発表にゼミ発表3回、展覧会カタログの翻訳と超多忙な毎日を過ごしてたんですよ。 あと、留学の準備。 1週間ほど前にスペインの国費留学生として長期留学を開始したとこです。 もう、しばらく日本には帰れないの・・・。 ってことで、これからはマドリードから現地情報を織り交ぜながらお送りします。

 で、スペインからの第一弾。なんか緊張するな。

 先週末まで行われていた展覧会(「Alberto 1895-1962」展)にあわせて、ソフィア王妃芸術センターの正面玄関前に巨大な彫刻が設置された。 アルベルト・サンチェスの《スペイン民衆には星へと続く道がある》である。

 俺はこの彫刻を見て、涙が出そうになるくらい感動した。 この感動を誰かに共有して欲しいっていうのが今回のテーマ。

 この彫刻が制作されたのは1937年。パリ万博のスペイン・パビリオンの入口にどーんと設置された。

 37年のパリ万博ってのは正式には「現代生活における芸術と技術国際博覧会」という名称で、表向きには近代技術の賛美を目的とした華やかな祭典だったんだけど、その実状は第二次大戦直前の政治的緊張を反映したプロパガンダの場でもあった。

 当時、スペインは内戦の真っ最中。 フランコ側にしても共和国側にしても、自らの正当性を訴えるのに国際的な関心が集まる万博という場を見逃す手はない。 フランコ側は正式には参加してないけど、ヴァチカンのパビリオンに壁画を提供しているし、共和国側はスペイン・パビリオンを建設して、内戦の悲劇を全世界へ発信する場として活用した。

 スペイン・パビリオンは建設費用も少なかったから、お金のかからない芸術作品が主な展示品だったんだけど、当時のスペインを代表するような前衛芸術家がこぞって作品を展示してる。 ミロとかフリオ・ゴンサレスとか、それはそれは豪華メンバー。

 そのパビリオンの入口にどーんと設置された《スペイン民衆には星へと続く道がある》。ある意味、パビリオンのトレードマークのような存在だったわけ。

 そして、スペイン・パビリオンの一階には、ピカソに割り当てられた壁面が用意されてたんだよ。 そう。 《ゲルニカ》はここに展示されるために制作されたんだ。

 どういうことだかわかる? スペイン内戦中に《ゲルニカ》が初めて展示されたパビリオン、そこを訪れた観客を迎えたのと同じ作品が、ソフィア王妃芸術センターを訪れた観客を迎えてくれることになるわけ。 美術館の入口でひとり感慨に耽っちゃったさ。

  ただし、この《スペイン民衆には星へと続く道がある》はオリジナルじゃない。 オリジナルは万博終了以降、行方不明になったままだ。 ソフィア王妃芸術センターの入口に設置されているのは、彼が残したデッサンや模型をもとにして復元されたもの。

 あれだけ大きな作品だから、ひょっこり出てくる可能性は低いんだろう。 すぐに見つかるようなもんだったら、美術館もわざわざ新しく作り直すなんてことはしない。

 オリジナルじゃないから意味がないって言いたいんじゃない。 この作品をわざわざ復元して、ソフィア王妃芸術センターの入口に設置したことがスペインの姿勢をしっかり表明していることになるんだ。

 《ゲルニカ》と同じで、復元されたアルベルトの作品も、あの内戦の悲劇を現代に伝えている。 マドリードの空に赤い星を輝かせながら。

 

2001年9月20日


 

 

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バックナンバー
◆第1回 絵画は「もの」である
◆第2回 スペイン美術ってなに?
◆第3回 ボデゴン
◆第4回 再現の難しさ
◆第5回 美術品の裏の世界
◆第6回 それ僕の!
◆第7回 星へと続く道
◆第8回 典型的なスペイン女性
◆第9回 バルセロナ > ガウディ
◆第10回 ピカソは何美術?

 

 

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