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第8回 典型的なスペイン女性 |
プラド美術館で「ゴヤ 女性のイメージ」という展覧会が開かれてる。 油彩85点、素描と版画が33点の計118点もの作品が集められた大規模な展覧会。(会期は2002年2月10日まで)
ま、これは俺の個人的な意見でしかないんだけど、展覧会のテーマ設定がどうしても好きになれない。 次の引用は、展覧会の意義を説明するパンフレットの一節。
18世紀が
のかどうか知らないのは僕の勉強不足かもしれないけど、意識的に女性の「革命的な」役割を画面に反映させた画家が、どこまで本当かは別として、いろんなとこで
を引き起こしてるのは明らかに矛盾してると思うんだけど。 ゴヤの「精力絶倫」なイメージと展覧会が提示しようとするフェミニスト的な観点がどうしてもしっくりこない。
当然のことだけど、ゴヤは「女性」だけを描いたんじゃない。 リベラを研究してる大学院生も言ってたけど、逆に「ゴヤ 男性のイメージ」っていう展覧会があったら気持ち悪そうでしょ? ってことは、この展覧会のテーマ設定自体、
なんじゃないかと思っちゃうんだよね。 あぁ、思いっきり毒吐いてすっきりした。
でさ、展覧会のテーマ設定にケチをつけるのが今回のテーマじゃないんだ。 確かに展覧会のテーマ設定は嫌いだけど、さすがにプラド美術館友の会財団 Fundacio'n Amigos del Museo del Prado(←訳すと変な感じ)の設立20周年を記念する展覧会だけあって、集められた作品は質の高いものばかり。
外国の美術館が所蔵しててこれまでカタログでしか見たことない作品とか、目にする機会の少ない素描なんかがずらっと並んでる。
その中でも特に興味をひいたのが、肖像画《ドニャ・イサベル・デ・ポルセル》だった。
理由は簡単。今年の7月、この作品についてゼミ発表やったんだよね。 つまり、作品の細かいデータを予備知識としてもってたんだ。 作品制作の動機がグラナダ滞在の折りにポルセル夫妻に受けた歓待に対する謝意の表明にあったことや、1805年に王立サン・フェルナンド美術アカデミーで展示されたらしいことなんか、あらかじめ知ってたわけ。 ただ、この作品はロンドンのナショナル・ギャラリーの所蔵で、これまで写真でしか見たことなかったんだ。 まだイギリスって行ったことないんだよね、残念ながら。だから、実物を見るのは初めてだった。
そのときのゼミ発表の主旨とも関連してくるんだけど、実際に作品を前にして考えてたのは、これまでこの作品について記述されてきたことがやっぱり偏ってるってことだった。 この肖像画を説明するとき、何が強調されるかっていうと、そのマハの衣装とドニャ・イサベルの強そうな容貌。 で、必ずといっていいほど「典型的なスペイン女性」っていう結論が導き出されちゃうんだよね。 いくつか引用してみよう。
スペイン女性のイメージを思い浮かべてみ。
確かにドニャ・イサベルの強そうな肖像画をまじまじと見てると、気丈なスペイン女性のイメージと重ね合わせたくなる衝動に駆られるのもわかる気がするんだけど、でもそれってただのステレオタイプでしょ。
スペインで実際に生活してるとさ、そんなのが幻想に過ぎないってのは身に染みてわかるんだよね。 日本女性だって全員が「大和撫子」ってわけじゃないでしょ。 つまり、ドニャ・イサベルの肖像を「典型的なスペイン女性」って言うのは、実は何も言ってないのと同じことなんだよね。
ある作品について色々記述されるのはその作品が評価されてることの証だけど、その記述を鵜呑みにしちゃうのはステレオタイプに染められちゃう危険があるっていういい見本なんじゃないかな。
2001年11月25日
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