JOANのカタコト

 

 

7.カタルーニャ選抜チーム

 城選手と西澤選手のおかげで、スペインのサッカーリーグも日本に随分知られるようになりました。カタルーニャ語圏にはスペイン1部リーグで活躍するクラブチームとしては、バルサ(FCバルセロナ)以外にも、エスパニョール、マヨルカ、バレンシア、ビジャレアルがあります。そして、これらのチームに所属するスペイン国籍を持つ選手がスペイン代表チームのメンバーとして選出されて、ワールドカップのような国際試合に出場することも何ら不思議なことではありません。

  でもカタルーニャ語圏にはクラブチームではないカタルーニャ選抜チームが存在するのです。日本ではほとんど知られていないでしょうが、毎年12月のクリスマスの直前にどこかの国の代表チームを招待して、親善試合を行っています。このカタルーニャ選抜チームは、ここ何十年かの間にすでに80試合ほどのキャリアがあるのだそうです。イギリスでのサッカーやラグビーはイングランド、スコットランド、ウェールズ等分離して試合をしているのに、なぜカタルーニャ語圏出身の選手はスペイン代表としてプレーしなければならないのか、その理由は誰もあまりはっきりとは説明できないのです。イギリスでは伝統的にこれらのスポーツに認められている民族ごとの選抜チームが、「多民族国家」スペインにも存在したっておかしくはないというのがその主張です。と同時にオリンピック等の国際大会に出場できるのは必ずしも独立国家とは限らず、一地域という例も少なからずあるのだから、国ではないとしてもカタルーニャ地域が独自の代表チームを持つことは不自然ではないとします。

  数年前には、具体的にサッカーのカタルーニャナショナルチームを持ちたいという要望の署名運動が行われました。集まった署名は予想以上の50万ともいわれ、それはカタルーニャ州政府に提出され、できるだけ早い政治的解決を求めました。しかし州政府議会は基本的には超党派で賛成でも、この件に関してはスペイン中央政府と国際スポーツ組織の承認を受けねばならず、その段階で拒否され続けたままの状態なのです。

  スペイン政府が何故そういったチームの存在を認めない、あるいは積極的にその運動を応援しないのかは、色々な言い訳がなされます。表面的には何であれ、その本当の理由はスペインの中の他民族チームを認めることは、他民族の存在を認めることになり、それがスポーツを離れ政治的分離独立運動に直結するのではないかという危惧なのだと思います。そしてIOC委員長のカタルーニャ人サマランク氏も、この件に関しては全くカタルーニャ寄りの姿勢は見せず、スペインにはスペイン代表1つで充分だという意見の国際的スペイン人サマランクになりきっているので、地元での評判は非常に悪いのです。

  というように、この困難な問題の政治的解決には相当の時間もかかるだろうという見通しから、とりあえず非公式ながらチームを組織して、スペインリーグや他の国際試合と重ならないクリスマス休暇の直前に友好試合を開催しているのがカタルーニャ選抜チームの現実の姿です。もちろん試合をすることで既成事実化、将来の公認代表化への布石としているのはいうまでもありません。

  これまでカタルーニャ選抜チームには、カタルーニャ州とごく希にバレアレス州出身の優秀な選手達が選ばれてきました。バレンシアの選手は、選ばれても拒否するのか最初から選ばないのか参加していないようです。最近ではバルサの選手と監督を長く務めたオランダ人ヨハン・クライフ氏の息子ジョルディ選手が、「カタルーニャ人」として参加しているのが注目されます。彼の存在はカタルーニャ人がその血統や使う言語よりも、出生地と本人の意志によって決定されるべきだということを象徴的に示しているかのようです。そしてこのチーム一年に一試合しかしないのにちゃんと専業の監督も決まっているし、何年か前にデザインが公募されたユニホームもあるのです。そして試合の相手は、スペインの他の州やクラブチームでは役不足で、カタルーニャと理論的に同格たる一国の代表チームを選ばねばなりません。ここ数年ではナイジェリア、ブルガリア、クロアチア、リトアニアの代表チームを相手に友好試合をしてきました。

  現在までのところ、主としてクラブチームのバルサがカタルーニャ州に住む人の心のよりどころになってきました。一方このカタルーニャ選抜チームは、それよりももっと積極的に外国人選手ぬきで全カタルーニャ語圏の人々のアイデンティティーに対応した、より応援しがいのあるものになるのを理想としています。ただ現実には、すでに述べたように対外的にIOCとかUEFA等の公的機関に認められない他にも、深刻な内部的問題によって状況は改善されていかないのです。それはカタルーニャ語圏の代表チームであるとするのならば、理論的にはバレンシアやフランス内の北カタルーニャ地域の選手も選抜の対象にならなければならないのに、現状ではほとんどがカタルーニャ州中心の選抜でしかないのです。つまりこの件に対してカタルーニャ語圏各州と各地域の足並みが全くそろっていないのです。もしこのチームが単にカタルーニャ州選抜チームだったとしたら、バレンシア州選抜、バレアレス州選抜と対等の存在となって、スペイン内部の各州選抜チームの一つに過ぎないという、まったく不幸なもっとも望ましくない結末にしかならないからなのです。必要なのは我らの「くに」カタルーニャの代表なのだから、どんなことがあっても州の代表であってはならないのです。

  結局のところ公認のカタルーニャ・ナショナルチームはまだまだ遠い未来の希望なので、この例年の親善試合はカタルーニャ人達が一時の甘い夢を見ることができるクリスマス・プレゼントなのでしょう。

 

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