留学生活のぞき穴
第2回 グラナダでの生活設計【ホームステイ】

 HOLA AMIGOS!


アルハンブラの花

 もう9月も終わってしまう。グラナダの朝は8月の猛暑の中でも、ツーンと冷たい空気で満たされていたけれど、もう9月、秋も間近になり、さらに冷えこむようになった。学校へ行く朝8時半、大学(藤沢の田舎)で徹夜した後の早朝の空気を思い出す。

 7月29日にスペインに着き、もう2ヶ月が過ぎようとしている。着いたばかりの7月末、8月のアンダルシアは、真夏、灼熱の太陽のオンシーズン。その暑さにも、外国に一人で来たという環境にも、慣れるには少し時間がかかった。

 全て、一から自分でやらないといけない。誰かの助けが必要なら、その助けてくれる友達を作るところから、始めないといけない。

 着いた次の日、さっそく大学に行ってみた。ホームステイ先を探すため、そして学費の残額を払うため。まず、ホームステイ先は、ファイルから紙一枚取り出して、それをくれただけだった。その紙には、ホストファミリーの名前、電話番号、住所などの情報が書いてある。あとは自分で電話して、行ってみて、交渉してね、ということだった。大学は情報提供をしてくれるだけ。…そうか、何事も自分でやらないといけないんだ、、、。

 学費の残額も、大学の事務室で払うのではなくて、銀行振込だった。La Generalというグラナダではあっちこっちにある銀行に行って、お金を払って、その控えを事務室に持っていくと、手続きが完了するとのこと。…そうか、自分で銀行行かないといけないんだ、、、。

 私立の語学学校の場合は、この辺、もっと親切かもしれない。2年半前にバルセロナの語学学校に行った時は、お金は学校の受付で払えたし、ホストファミリーのアレンジは全部学校側がやってくれた。もし、初めての留学の時、スペイン語もダメダメだったあの頃、このグラナダ大のようなシステムだったら、しんどい思いをしていただろうな。

 でも、全部自分でやらないといけない分、スペインの実社会との接触が増える。今の私は、全部お膳立てしてくれるより、自分で動く方が好きだ。銀行振込は、学校がくれた振込用紙とお金を持って銀行に行くだけで、何も難しくなかった。「な〜んだ、簡単じゃん!」とスペインの銀行を身近に感じた。

 次は、ホームステイ。公衆電話から、紙に書いてある電話番号に電話した。女性の声につながった。「ホームステイしたいのですが、見学に行ってもいいですか?」と言ってみたけど、「え?」と分かってもらえない。何度言い直しても「聞こえない」と。公衆電話が壊れてたのか、私のスペイン語が終わってたのか(笑)、仕舞にはいきなり電話を切られてしまった。楽しみにしていたホームステイ、ほんの少し寂しいスタートだった。次の日また学校に行って、違うファミリーを紹介してもらおう。そう思って、その日は諦めた。
 次の日。このことを説明したら、事務の人が電話をかけてくれた。違うファミリーを紹介してもらおうと思ってたけど、でも折角だし…と思って一度は家を見学してみることにした。事務の人とはすんなり話が通って、その日のうちに見学することに。地図を片手に家を探す。街の中心からは徒歩15分くらい離れたところで、初めて通るCalle(通り)ばかり。少し緊張した。スペイン人に道を尋ねたら、すごく親切で心が弾んだ。説明の仕方が親切というより、対応の仕方がフレンドリーで。

 そして、家に着いた。ドアが開いて出てきたのは、おばさんとおばあさんの中間くらいの女性だった。しかも、すけすけの薄手のTシャツにノーブラ。フラメンコで使うような、アバニコ(扇子)を片手に、満面の笑みで迎えてくれた。少しビックリした。でも、アンダルシア人のおばさんっぽくて、親しみが沸いて、一瞬で「ああこのファミリーにしようかな」と思った。部屋を見て、値段などの説明を聞いて納得したので、次の日早速引越しすることに。ちなみに、このファミリーは1日18ユーロ、3食付だった。

 グラナダ大の場合、大学側が一括管理してないから、ホストファミリーはそれぞれ値段もシステムも違う上、会話があって家族の一員みたいな環境か、それともただ下宿してるだけで食事も家族とは別に取るかなどの環境もそれぞれ異なる。しかも、大学側がホストファミリーの質をチェックしていないから、たまにハズレがある。残念なことに。ホストファミリーとの問題を、周りの友人から聞くことも割とある。ご飯は缶詰のものばっかり、という悲惨な子もいた。

 ホストファミリーとの交渉や、良いか悪いかの判断は全て、学生自身がやらないといけない。この点、私は不満だ。後で「こういう問題があったのだけど…」と大学の事務に話しに行ったら、「ああこのセニョーラへの苦情は結構きてるのよね」と言われたという例も。じゃあなんで、そのファミリーの情報を消去しないの?!と思う。外国に一人でやってきた学生が、運悪くそのファミリーを紹介されちゃって、いやな思いするなんて、不合理だ。大学側が情報の量だけじゃなくて、質までしっかり管理する責任あるんじゃないの〜?せめて、一度苦情が出た物件は、ファイルから消去するか、ブラックリストを作るかくらいするべきだ。

 でも、大学側を変えるのは無理。だから何よりも大切なのは、自分の判断力と交渉力…なのかもしれない。何かおかしいな、と思ったら、黙っていないで言う。それでもおかしかったら、さっさと次に切り替える。お金を払っちゃってたら、返金は難しいけど…。でも、親切な人だったら、着いた初日に全額払えとは言わないと思う。私の場合、日本からの海外送金を待っていたから、最初の数日間手元にお金がなかった。それを説明したら、「払える時でいいよ」と言ってくれた。それでステイを始めて一週間後くらいに払ったけど、No problema。

 こうして、私のホームステイは無事に始まった。ホストファミリーは当たりだった。けれども…、最初は大変だった。言葉の壁。

 まず着いた初日。荷物をばらして、空き部屋だったその部屋を、私の部屋に変えていった。部屋の整理が終わって、疲れて一眠りしている間に、セニョーラのお友達がやってきたみたいだ。目覚めたら、2人の声が聞こえてくる。何だか、怒鳴りあって、けんかしているように聞こえた。喉が渇いていたけど、怖くて彼女たちのいるサロン(リビング)に出て行く気になれなかった・・・。自分の部屋から彼女たちの会話に耳を傾けても、なーんにも聞き取れない。ただ"Ella"(彼女)という単語が聞こえると、自分のことを何か言ってるんじゃないか、と不安になった。そんなことはないと思っても、被害妄想が膨らむ。だいぶ聞き取れるようになるまで、"Ella"という単語が聞こえる度に、少し不安になった。言っていることが分かれば起こりえない不安。

 さらに、私も会話に交じっている時、多少ゆっくり話してくれている時でさえ、アンダルシア訛りで、最初は99%くらい、ほとんど聞き取れなかった。私ってこんなにスペイン語分からないんだっけ?!と本気で凹んだほど。だって、"para"は「パ〜」としか言わないし、例えば"las islas"は「ラ・イッラ」、"pescado"は「ペッカーオ」。そんなこんなで、会話してても、ほとんど理解できなくて、セニョーラが一人で話して、何だか良く分からないけど私は聞き続けた。いつか分かる日が来ることを信じて・・・。分かる日が来なかったらどうしよう、とも思った。

 ホームステイを始めて4日後に大学のクラスが始まった。何よりも嬉しかったのは、先生たちの標準スペイン語。全部聞き取れる。あ〜やっぱり、問題は私の聞き取り能力じゃなくて、アンダルシア訛りだったのね…とほっとした。

 そして、クラスも始まって、1週間経った頃に、「あれ?セニョーラの言ってること分かるぞ」と改めて驚いた日がやってきた!訛りは訛りなだけで、違う単語を使っているわけではない。しかも訛りの法則もシンプル。ただ"s"の発音が"変形"するだけ。"s"がなくなるわけじゃなくて、「ッ」という感じ、喉に詰まる音に変形しているように、私には聞こえる。"s"は発音しないけど、例えば"las islas"(ラッ・イッラッ)と"la isla"(ラ・イッラ)は違って聞こえる。だから、その音の変形に気付いたら、最初は違う言語かのように聞こえたアンダルシア訛りも、ちゃんとスペイン語に聞こえるようになった。

 そして、同じ頃分かって来たのは、アンダルシア人は(スペイン人は、と言えるのかも)怒鳴るように話す、ということ。けんかしてるように聞こえても、普通に楽しく会話しているだけなんだ。顔を引きつらせながら、何かを罵倒しているように見えるその仕草も、すごく会話に熱くなっているだけで、ネガティブな意味はないみたい。もちろん本当に罵倒している時もあると思うけど。

 ある日、家族で何かを話してて、けんかのように全員が怒鳴っていて、何かな?と耳を傾けたら、何のことはない、「今日グラナダは38度だったぞ!」「でもアルメリアは39度だった!」「マラガの方がもっと暑いとテレビで言ってたよ!」…とどこが一番暑いかについて話しているだけだった、ということも。(笑)

 そんなアンダルシアでのホームステイ。部屋で勉強してても、例のけんかのような会話に邪魔されるわ、ご近所さんたちの声も同じようにけんか口調だわ…、日本人な私はなかなか落ち着かなかったけど、みんな愛嬌があって憎めない人たち。クラスでは感じられないアンダルシアの家、家族を100%楽しむ一番の方法。

 次回はグラナダ大学の語学コースについて書きますね〜♪Ciao!

● プロフィール
今泉陽子
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、グラナダ大学Estudios Hispa'nicos(外国人コース)に留学中。趣味は写真、フラメンコ、サルサ、茶の湯。詩が好きで、ロルカを追い求めてグラナダへ。「日本とスペインの架け橋」なるものを目指し、日々修行中。
文通しましょう → yoyofeliz@nifty.com
(写真)アルハンブラ宮殿を背景に

1.スペインへやってきた! 3.グラナダ大学・大解剖!−語学編
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