003 Septiembre / 2000

 

Pedro

スペイン miniQ&A

 

(日本行きを目前に控えた)今の気持ちは?

緊張している。本当は少し、行きたくないなーと思ってる(笑)。



スペインに来る日本の若者に、スペインの何を知ってほしい?

情熱。そして人と人との関係、その温かさに触れてほしい。

ペドロ・フェルナンデス・プリエト (PEDRO FERNA'NDEZ PRIETO)

1977年、マドリード生まれ。98年、初めて日本を訪れる。2000年9月、再び日本へ。帰国予定は、未定。

 


  とにかく流暢に日本語を操る。 「憂鬱」と漢字で書ける22歳なんて、日本人でも滅多にいないのではないだろうか。 政治経済の話も、くだけた話も、すべて日本語で理解し、また表現することができる。 歌謡曲ならスピッツ、それに『命くれない』と『雪国』が好き。 そんなペドロさんだが、本格的に日本語を勉強したのはほんの2年前くらいから。 それも語学学校でではなく、在マドリードの日本レストランでウェイターの仕事をしながら、学んだのである。

  スペイン人にとっての日本語は、日本人にとってのスペイン語よりも遥かに難しい。 それは、使用される文字を見れば明らかだ。 見慣れているし数も限られたアルファベットではなく、ひらがな、カタカナ、それに日本人にすらマスターするのが困難な漢字。 「でも、だからこそ、おもしろいと思いました」 そんな彼が、日本レストランのウェイターとして働きながら夢見たのは、いつか日本に行くことだった。 でも、どうして? 「うーん、どうしてでしょうね。それは、私も知りたいです(笑) でも、昔から、なぜか日本に行かなければならないという気持ちがありました。 それが運命だ、と」

 念願叶って、旅行ではなく住むために日本へ旅立つ6日前、ペドロさんに話を聞いた。



 なぜだかわからないけど、子どもの頃から日本文化に対して興味を抱いていた。 そのうち、たまたま幼少時からスペインに暮らしている日本人の友人ができた。 4年ほど前、たまたま見掛けたマンガ雑誌にひらがなとカタカナが書いてあったから、それを買ってきて全部覚えた。 偶然だか必然だかが重なって、ペドロさんを日本に導く。

 2年前の夏、ついに憧れの日本を訪れた。 成田に到着した後、東京は素通りして横浜の知人宅へ。 その後、関西地方や四国、九州などを1ヵ月半に渡って旅した。 「その時は、日本の嫌なところもいっぱい見ました」 遊びに来てくれ、と言ってくれた友人宅を訪れたら迷惑な顔をされた。 道を尋ねようと声を掛けたら、悲鳴を上げて逃げて行かれた。 タクシーに乗ろうとして自動ドアーに思わず手を掛けたら、「汚い手で触るな」と言われた。 思いもしなかった都会の人の冷たさを目の当たりにして、かなり打ちひしがれてしまった。

 ところが、田舎を訪れて印象が変わった。 「別府温泉、最高でした!」というだけではない。 人が温かいところが、とても好きになったそうだ。 こんなことがあった。 熊本は水前寺から大阪へ帰る汽車で、乗り込んできた老婦人に席を譲った。 これがきっかけで、この老婦人と、同伴の若い女性と会話が始まった。 彼女たちは方向が同じだから、途中まで送ってくれると言う。 ペドロさんの分も買ってくれた駅弁を広げて、話が弾む。 「そしたらそのおばあさんにね、私の娘と結婚したらちょうど良いねぇ、って言われたんです。 びっくりしましたよ!(笑)」 今回の滞在でも、できるならば、人が温かい田舎に住んでみたいと願っている。



 ところでスペイン人のペドロさんから見た、日本のヘンなところってどこだろう? う尋ねると、ペドロさんは「ストレスの溜まる社会」と即答した。 スペインに少しでも住んだ日本人ならわかるが、スペインではそれほど人間関係でストレスが溜まることはない。 「日本人は礼儀正しすぎて、他人に迷惑を掛けられないから、やりたいことがやれない。 それで社会的にストレスが溜まるんじゃないかと思います。 だってみんなわかっているから、そう言ってるでしょ。 みんながヘンだって思っていますよね。 それはやっぱり、ヘンじゃない?」

 偽善、そんな言葉も飛び出した。 「日本人には、ふたつの顔がありますね」 建前と本音。 家に来てほしくなければそう正直に言ってくれれば良いのに、来てね、と言うから実際に訪れて嫌な顔をされ、悲しい思いをする羽目になる。

 上司や先輩など、年齢の層によって見えない壁が作られているのもヘンだと思う。「年上の人を尊敬するのは大事だよ、でも、もっと近づきたくてもその壁を越えられないっていうのは、嫌じゃないですか?」

  「そして、若い人はアメリカしか見ていないよね。 英語が出てこない歌って、ほとんどないでしょ。 日本も良い文化があるのを忘れているのが、残念」 京都を訪れた時、古くて伝統的な建築物のすぐ隣に、とても現代的なビルが建っていた。 伝統的なものと現代的なもの、その両面を併せ持つのが日本の魅力だと感じている。 それなのに、最近は、全てが流行のものに押し流されているんじゃないか。 江戸時代には鎖国政策までして、日本は古いものや日本固有の文化を大切に守ってきたのに……。 「どうしてかなぁ、と思いますね。 とても、残念です」



 では、日本の良いところは? 「日本人は、最初は冷たいかなと思うけど、友達になったらとても温かくて、良い関係が築ける。 それは、良いなぁと思いますね。 それに、地球とか自然とか、環境を大事にするセンスも持っている。 これは、スペイン人にはないでしょ?(笑)。 教育の問題だと思いますけど」

 最初は日本の格闘技や武道に漠然と憧れた。 でもただ憧れ続けただけではない。 日本レストランで働き、「覚えないと、仕事にならないから」と必死で日本語を覚えた。 働きながら、実際に多くの日本人に触れた。 一昨年は日本を訪れ、嫌な面もたくさん見た。 それでも、日本で生活したいという気持ちは弱まるどころかかえって強くなり、日本行きに反対していた周囲の人々も今では応援をしてくれるようになった。

 

 そこまで日本に惹かれる理由は、何だろう? 日本人が温かいといっても、波涛万里、単身で日本に渡る理由としては不足ではないだろうか。そう問うと、ペドロさんは漢字を書く手を止め、しばらく考え込んだ。

  「うーん、そうですね。やっぱり、私が日本に行くのは、運命だと思っているから(笑)。 住む場所も仕事も決まっていないし、不安もたくさんありますけど、後悔だけはしたくないから、今、行きます」

  ペドロさんを乗せた飛行機は、9月1日、日本に到着する。 彼は日本で何を見、何を感じるであろうか。 願わくば、幸多からんことを。



※   ペドロさんへの応援メールは、elysium15@hotmail.com(ペドロさん個人メール)まで。

 

 

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