001 Jun. / 2000

 

スペイン mini Q&A

 

スペインの魅力は?

。良いにつけ、悪いにつけ(笑)。でも一生懸命やっている人には、必ず協力してくれる。これはすごいことですよね。

スペインに来たいという若者へのメッセージ

:何かポリシーを持って来た方が良いんじゃないかな。「とにかく日本を出たい」では外国には住めない。スペインでやりたいことがある、それくらいは持って。

山澤 伸 (Yamazawa Shin)

1954年、千葉県生まれ。多摩美術大学多摩芸術学園映画科卒。92年1月、マドリードにスタジオ開設。同年、マドリード・プロフェッショナル写真協会主催写真コンクールで2位入賞。99年、マドリード・アーティスト協会会長を務める。

→ 作品は http://www.fotoforum.net

 


 「これは本当に写真なんですか?」 見る人を驚かせ、同時に魅了する山澤氏の作品。 "ゴヤとの対話"と氏自らが位置づける『闘牛』、氏とスペインを結ぶきっかけとなった『フラメンコ』などのシリーズで撮られ続けている作品群は、どれも私たちの"写真"に対する先入観を心地良いほどに蹴散らし、そのシリーズ毎に新鮮な感動を与えてくれる。 「自分の持っている色、それを出したい」とカラー写真をテーマに撮り続けて15年。 コンセプトに合わせてスタイルを定義、機材からテクニックまで全てを変えるため、作品はシリーズによってがらりと雰囲気の異なるものになる。 「友人はこう言うんです、お前はカメレオンみたいなカメラマンだよなって。 そう言われて?  光栄だなぁ、と思ってます(笑)」

 経歴からわかる通り、そもそも興味があったのは映画。 小学校の頃から週末は映画館にいたという少年は、ネオ・リアリズムのイタリア映画や名匠ジャン=リュック・ゴダールに代表されるフランス映画に心を奪われて成長する。 やがて学生時代には、アンディー・ウォーホールに影響を受けて16ミリのアンダーグラウンド映画製作に没頭。 そんな学生仲間が集まって会社を設立……と、映画の道を歩み続けた。 それが80年、仕事で当時のソビエトを訪れた際にふと弟さんのカメラを借りて持参したことから、表現媒体として写真に関心が移る。 「映画は多くの人が関わるから、どうしてもそこに妥協が入る。 一人でできる写真なら、そんなことはないだろうと」 そこで写真を学ぶためにコマーシャル会社の写真部に入り、アシスタントを務めながら勉強に励んだ。 3ヶ月後に正規のカメラマンに抜擢されて以降、試行錯誤を繰り返しながら、広告デザインなど多角的な方面にも関わっての活躍が続いた。

 29歳でフリーランスになって2年後、再び転機が訪れる。 「100%自分の仕事、自分の作品を作りたい」とやっと軌道に乗った仕事を全て整理し、ありったけの貯金とフィルム200本を持ってイタリアへ。 映画で憧れたこの地で、固定観念を取っ払って、自分の思うままにシャッターを押した。 イタリアの"色"を表現するこの『イタリアの香り』が、氏のシリーズ第一作となる。

 氏をスペインへと結び付けた更なる転機は89年、招待を受けてパコ・デ・ルシアのコンサートを見たことから始まる。 感動のあまり、1週間に3回も足を運んだという。 偶然は重なるもので、ちょうどその頃に航空会社のイベリアから依頼を受け、初めてスペインを訪れることに。アンダルシア地方を15日間、友人とレンタカーで巡る旅。 「くそ暑い国だなぁ、なんて(笑)」思っていたある日、セビージャで知り合ったタクシーの運転手が、今日はちょうどエル・ロシオ(ウエルバ)の祭りだと言う。 予定もないし、と期待もせずに足を運んだのだが、そこで見た光景に、息を呑んだ。 「なんだこれは、と。 しばらくシャッターが押せなかったほどでした」 この時の写真が、後にマドリード・プロフェッショナル写真協会主催写真コンクールで2位に入賞することとなる。

 そして忘れてならない出会いがもう一つ。 当時東京で勤務していた夫人との出会いである。

 90年に結婚、翌年には帰国を望む夫人とともにマドリードへ移住。 「まぁ5年くらいは良いかな」というつもりが、気がつけば一男一女にも恵まれて9年目に。 コンスタントに開催される個展は高い評価を受け、99年にはマドリードのアーティスト協会の会長も務めた。

 上記の賞を獲得した際の受賞パーティーで知り合った若手写真家や、レアル・ソシエダ-・フォトグラフィアでの個展をきっかけに知り合ったスタッフたちとの関係も、時とともにかけがえない素晴らしいものとなっている。 スタジオがあるピソの住民も魅力的な人ばかりで、大切な飲み友達の、もう現役を退いたギタリストもその一人だ。 「日本の友人に会えないことよりも、」と氏は優しい目で語る。 「こっちの連中にもし会えなくなったら、と思う方が淋しいですね」 "人の縁"を何より大切にする氏の周囲には、自然とさまざまな国籍や職業の人が集まって来る。 地位を築いても決して奢ることのない氏の柔らかな雰囲気が、多くの人を惹きつけるのであろう。

 「まだまだやりたいことがたくさんある」という山澤氏。 たとえば長年テーマとして追ってきた"光"、そして日本の"字"にも新たに関心を持ち出したとのこと。 "自分の色"を追い続ける氏と、"カメレオン"。次々と私たちの固定概念を吹き飛ばすような作品を生み出す氏は、今度はどんな色を見せてくれるのだろう?



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