002 Agosto / 2000

 

スペイン miniQ&A

 

スペインの魅力は?

人間。そして太陽と食べ物



スペインに来たいという若者へのメッセージ

:しっかりとした目的意識を持って、勉強でも音楽でも責任を持って取り組むことが大事。滞在する期間を区切っておくのも一つの方法。

山下 洋佑 (Yamashita Yosuke)

1941年、東京都世田谷区生まれ。 1970年に渡西。 マドリードで主宰する山下道場は、スペイン国際空手道連盟剛柔会の本部。 現在、スペイン武道会代表ならびにマドリード日本人会会長を務める。

"GIMNASIO YAMASHITA"
Calle Echegaray, 8 bis, 28014 MADRID ESPAN~A
Tel. : 91 429 4720

 


 押しも押されもせぬ空手道の大家。 スペイン国王フアン・カルロス陛下の皇太子時代に空手道を演武指導しており、会うと「エル マエストロ、アミーゴ ミオ」(師よ、我が友よ)と敬意を表されるという。 こよなく愛するスペインで空手指導を続けて30年。 今やマドリードには約400の道場があり、スペイン全土の空手家は実に10万人に及ぶ(協会登録者のみ)。 本家の日本では約5万人であることを考えると、その隆盛ぶりがわかろうというもの。 「空手は重量別に7階級に分けられるんですが、今はその7階級のうち2階級、スペイン人が金メダルを獲りますよ」 それほどまでに、スペインに空手を浸透させ、発展させてきた立役者である。

 剣道六段を有する厳格な父の影響もあり、中学校で柔道に取り組む。 高校時代に空手道に出会い、一生を捧げることになった。 「修行は好きでしたから嫌々ということはなかったですね。 当時空手に限らず武道をやる者は真剣に修行していて、空手人口も多くちょっと違うけど、ちょうど今の日本のK-1のようなものですよ(笑)」 そして忘れられないのが1964年の東京オリンピックでの柔道種目。 日本代表の神永選手が、格段に体格の良いオランダ人、ヘーシンク選手を相手に敗れた試合だ。 「もう悔しくてねぇ。 体の大きいのには勝てんのか、いやそんなはずはない、と。 日本中がなにくそ、とすごい熱気に包まれたもんでした」

 武道に励む一方で、学生時代から好きだったのは洋画。 ”ローマの休日”などでスクリーンに映し出される外国の街並みや女優の美しさに、いつしか心惹かれていった。 「なぜかはわからないですけど、中学時代から体を鍛えておこうということと、英語を勉強しておこうということは考えていましたね」 当然、山下さんが選んだのは、海外での指導という途だった。

 後輩が続々と外国に空手指導に行くのを羨ましくながめていました。 そして1969年、28歳の秋、満を持して渡った先はドイツ。 ところが10月から3月寒いし雪ばかりが続くし、なんとなく肌に合わずに鬱屈とした気分になってしまう。 そんな時、ロンドンで開催されたヨーロッパ選手権でたまたまホテルが一緒になったのが、当時すでにスペインで空手指導にあたっていた友人。 ちょうどスペインではその前年、それまで危険だからと禁止されてきた空手が解禁となったところだった。 「スペインはどうですか、太陽はどうですか、と聞いたら『知らないんですか、スペインは”太陽の国”ですよ』と言われましてね」 この言葉に魅せられて、翌春、ボストンバッグ1つを手にスペインを訪れた。

 「3月8日です、忘れもしません。 マドリードに着いたら、こう(と、両手を広げて仰ぐ格好)太陽が輝いているわけですよ」 体いっぱいに太陽の光を浴びようと、公園に横になった。 「だから公園の芝生で日光浴をする北欧の人の気持ち、わかりますよ(笑)」 しばらくして友人に電話をしようと思い立ったが、ペセタの持ち合わせがない。 そこに、18歳くらいの若いスペイン人が近づいてきた。 「どうした、と英語で聞いてくれるんですね。 電話を掛けたいけどペセタがない、と説明すると、『これを使ってくれ』とお金を差し出してくれる。 それじゃ手持ちのドルかマルクと交換しようと言っても、『良いから、良いから』と受け取ってくれない」 「マドリードに着いて、いきなり太陽でしょ、それからすぐにこういう親切を受けて、それはもう、いっぺんにスペインが好きになりましたよ」

 太陽と食べ物が素晴らしい、そして住んでいる人々が最高。 ある中華レストランへ行った時のこと。 当時は日本人も少なく、日本食レストランなどない時代だった。 「あなた、日本人?」そう尋ねたのは、オーナーの奥さんである日本人女性。 「あなた、注文しなくて良いから、遠慮なく食べてね」と作りたての五目炊き込みご飯、漬け物、みそ汁を出してくれた。 「嬉しかったですよ。 熱い五目炊き込みご飯を、フウフウ吹いてね。 あの味は、今でも良く覚えていますね」

 そして忘れてはいけないのが、深い絆で結ばれている空手の弟子たち。 まだスペインに来て間もない頃、教えていたサムライ道場の弟子たち8名が、老舗レストランのカサ・パコで誕生日を祝ってくれた。 「先生へ、と特製の金のバッジをプレゼントをくれたんですよ。 それもびっくりしたんですが、さらにみんなが『先生、先生のためなら我々はひとり100万ペセタ(当時1ペセタ約 5円)、みんなで800万ペセタ(当時の日本円で4千万円)出す。 先生の道場を作ってくれたらいちばん嬉しいが、何にでも好きなように使ってくれ』と言ってくれるんですよ。 私がまだスペイン語わからないから、英語を交えながら一生懸命にね。 もう、本当に、涙が零れそうになりました」  そして皆がそれぞれの途を歩みながらも、今なお親密な師弟関係で結ばれているということだ。

 人に支えられて来た恩返しという意味もあってか、現在、マドリード日本人会会長を務めている。 「いろいろな方面から様々な相談事が来て、まぁ大変ですよ。 今は本業よりも、それ以外の仕事の方が多くなってしまったほどです(笑)」  それでも毎回千人以上の入場者でにぎわう餅つき大会や盆踊り大会、講演会、音楽会、展覧会などを成功させるため、東奔西走の日々が続いている。

 79年に結婚した夫人との間には、大学生と、この9月から大学生になるふたりの息子がいる。 兄に続き弟も日本で勉強したいということで、東京都広尾にある夫人の実家から大学に通うことになるそう。 これまで毎年夏には家族全員でスペイン中を車で旅行するのが楽しみだったのだが、今年からは久しぶりに夫婦水入らずの旅行となりそうだ。 「そうですね、久々にゆっくりと、というのも良いかもしれませんね」 だがこのインタビューの間にも、電話や来客が絶えない。 「ひょっとして、ここの先生?」 突然道場を見学に来たスペイン人の若いカップルにも、笑顔で応対をする。 まだまだ多忙な日々が続きそうだ。


※スペインでの空手指導資格について

 スペインで空手指導をするためには体育局の認定免許が必要。 現在、体育局認定免許を取得しているスペイン人約1200人、日本人取得者24人。 認定試験は5科目(実技、審判、医学一般、体育理論、救急法)。 救急法は赤十字にて行われる医療試験と同じですのでスペイン語が出来なければ合格出来ません。 ここ10数年、日本人は合格していません。

 

 

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001 マドリード在住プロ写真家 山澤 伸
(スペインの魅力は? 、良いにつけ、悪いにつけ・・・)


 

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