タイトル:ガリシア沖重油タンカー沈没事故

 

 
     目  次

どのような事故なのか
海を守るために
海鳥の救護の活動
海鳥,自然へ与える影響
ボランティア活動
  

 

重油に覆われた岩場の海辺(12月8日、Corrubedo海岸)  

 

ガリシア沖重油タンカー沈没事故

どのような事故なのか

 11月半ばにスペイン北西部、ガリシア地方沖を航行中の重油輸送タンカー、プレステージ号が悪天候のため難破、11月16日以降、その船体から重油が流出し始めた。 今回事故を起こしたタンカーの船倉は旧式の1層構造で、重油輸送をこのタイプのタンカーで行うことを欧州委員会が規制する動きに入り始めていた矢先の事件であった。 タンカーが積載していた重油は7万7000トン。海岸線への影響を軽減しようと沖合に牽引途中の11月19日、船は沈没、また2分裂した船体から大量の重油が流れ出した。

岩の上に打ち上げられた油の塊
 岩の上に打ち上げられた油の塊

 当初、政府はこの流出重油の量をかなり低く見積もり(3500から5000トン)、正確な流出重油の量も把握していなかったようだ。 流出量の数字は当時のニュースを見ていても毎日増加していく状態が続き、また被害についても重油は沈み、大きな被害は発生しない、という見方であった。 よって予測される被害に対する方策も講じられず、予想に反して浮遊した重油の塊が海岸線に近づいてきても、台風が近づくのを見るかのように、毎日ただ、ただ、油塊の動きが報じられた。 事故から約1週間後には、海岸は重油の固まりに侵され始め、海岸の生態系は死に瀕した。 重油の推定流出量は2万トンとも言われている。 また、事故から1ヵ月後経過した後も海底に沈んだ船からの重油流出は食い止められていない。 また、海岸への重油漂着は、事故から1ヶ月後、事故直後よりもいっそう悪化している状況である。


umiを守るために

 被害は漁業への経済的打撃、生物への影響、地球環境、などさまざまな分野に影響を与えているが、連日トップで報道されるその被害状況は国民に大きな憤りと衝撃を与えている。 被害に対して、Solidalidad(団結)の気運が国民の中に高まり、最悪の状態を少しでも回避しようと、スペイン中、世界中からボランティアが集まってきている。

 現場のボランティアは、一般市民や学生、軍隊による海岸に付着した重油除去作業、、漁民などを中心とした、船での重油救い上げ撤去作業、NGOと政府が協働して行う海鳥の救護活動、などに大別できる。

船で重油を汲み上げる「桶」
ボランティアの人たちによって集められた重油 船で重油を汲み上げる「桶」

 今回、海を救うためにもっとも貢献しているのは、ボランティアの活動だ。 寒い冬の雨空の下、重油撤去作業は過酷な重労働である。 しかしながら、海を守るための活動のため毎日、多くの人々がガリシアを中心とする被害地に集結し、作業している。 漁業を生業とする漁民たちは重油が海岸に押し寄せる前に回収しようと、荒い波にもまれながら海岸を浮遊する油と格闘している。

 他にも、市民団体のプラットフォームが形成され、政治に対する抗議アピールなどが各地で開かれ、実に多くの人々が、それぞれの立場で協力を行っている。


海鳥の救護の活動
洗浄中の海鳥
洗浄中の海鳥

 海鳥の救護活動についてはいち早く、世界規模のボランティア団体が行動を起こした。 現状、2つの主要な救護センターでは州政府が主に統括管理とインフラを整備、そこに油汚染鳥類の救護専門家を持つ、国際動物福祉基金 International Fund for Animal Welfare(以下、IFAWと省略)などのNGOが実質の活動のためのテクニカルな指導を行い、必要な設備の設営が行われ、運営されている。 また、バード・ライフの現地NGOであるスペイン鳥類学協会(以下、SEOと省略)は海岸線のパトロールを担当し、汚染された鳥を一刻も早く救護センターに運び込む役割を果たしている。 油で汚染された鳥は保温調節がきかなくなり、多くは体温の低下により死亡する。 一刻も早く、保温状態で鳥の衰弱を回復させ、解毒、洗浄のプロセスを踏むことが救命のポイントとなる。

海鳥の洗浄後乾燥
洗浄された鳥は箱に入れられ、ドライヤーで乾燥させられる

 日本のNPOである野生動物救護獣医師協会(以降 WRVと省略)はバードライフ・アジアと合同で被害を受けた海鳥の救護活動にボランティアを派遣することを11月下旬、事故の知らせから早々に決定した。

 今回、日本から派遣された獣医は2名。 いずれも1997年のナホトカ号事件で油汚染鳥類救護の経験をもつ医師らである。 彼らとスペイン在住の日本人として参加したボランティア3名はポンテベドラに設置された救護センターで鳥の洗浄と給餌などの活動にあたった。 救護センターに収容され、救護を受けている鳥は約350から400羽。 受け入れから、油の洗浄、再び自然の中で飛び立つ力を養うまでのリハビリまで、救護の日程は約3週間を要する。 また、放鳥が可能な状態になったとしても、渡り鳥の性質上救護センターで費やした日程を鳥の旅程から考慮すること、また放鳥地域一帯の汚染状態を調査する必要もある。 これらの調査をようやく終え、事故以降初めて、37羽が、12月14日に放鳥された。 一方、まだまだセンターに運び込まれる海鳥も後を絶たず、救護活動は長期化する様相を呈している。


海鳥,自然へ与える影響

 WRVのボランティア獣医として現場に赴き、今回の事故と救護の現場の惨状を目の当たりにした斎藤氏は、今回のプレステージ号の事故について、比類のない大規模な事故であり、湾岸戦争で油田破壊による汚染が行われたことを除外すれば、タンカーの事故としては、最大級の被害になるのではないか、と推測する。

リハビリ中の海鳥
再び飛ぶためにプールでリハビリ中の鳥たち

 現場から斎藤氏が持ち帰った、重油の塊に触れさせてもらった。 何重にも包んだビニール袋を通してさえも鼻を突く刺激臭を放つ。 個体は、室内の常温にもかかわらず、異常に粘度が高く、手にこびりつくと、非常にねばねばした感触を残し、拭い去ることも困難だ。

 海鳥救護の最前線、パトロールのSEOメンバーから集まってくる鳥たちのなかには、存命しているものや、上記の油の塊と混同さえしそうなほど油にまみれた鳥の死骸が連日集められている。

 ウミガラス(Uria aalge)はスペインでちょうど繁殖期に入っていたところのコロニーを重油が襲う、という悲惨な結果に結びついたため、スペインでこの種は絶滅する危機にもさらされている。 ビゴの海洋研究所では汚染の影響で死亡したと推定されるイルカが数頭運び込まれ、またア・コルーニャの救護センターには不審な死因のキツネも運び込まれた。 解剖結果はまだ不明であるが、汚染された鳥を食べた可能性による死亡の可能性も存在している。現地でTVの報道を見ていた人の中には、打ち上げられた油の塊と見まがうほど、油まみれになったウミガメのショッキングな死骸の映像もまぶたに焼き付いているのではないだろうか。

 鳥の被害が多く報道されているが、12月19日にSEOより発表された被害数は死亡、救護中を含め、4100羽あまり(12月15日までのデータ)。 確認されていないものも含めると、被害総数はこの1ヶ月で2万から4万羽に上ると推定される。 また、数年に渡り、繁殖力の低下などの現象も免れないなど、生態系に与える大きなダメージが心配される。


ボランティア活動

 野生動物に国境はなく、地球全体の財産である、との考えの下、WRVでは、バードライフ・アジアと合同で、人的、経済的支援を今後も援助していく方針を固めている。 12月25日には、今回派遣された獣医師らを交えて日本で報告会が行われる。 また、必要に応じて2003年1月以降の派遣のボランティアも待機させている。

大西洋海洋自然公園 Cies島での作業から船で戻ってきたボラン
 大西洋海洋自然公園 Cies島での作業から船で戻ってきたボランティアたち

 野生動物の保護だけが今回の被害に対する援助ではない。 しかし、日本からいち早くこの事故に注目し、救済の手をさしのべたのは、WRVであった。 彼らが行動を起こしたため、日本の報道関係にも今回の事故が認知されている、といっても過言ではないと思う。

 今回、私は個人として、このWRVの活動に賛同し、協力した。 個人がこのような大きな惨事を前にできることは小さな協力であると思う。その力が一つになって、今回も海を、自然を、動物たちを救う活動が続けられている。 できればスペインを愛する一人でも多くの方に賛同と協力をいただければ、と思う。


 今回の募金のうち、ボランティア救護活動に充てた資金を上回り余剰金が発生した場合(現在、赤字ではある)、スペイン鳥類学協会(SEO)へ寄付される予定。

野生動物救護獣医師協会 (WRV)ホームページ
WRVのスペインでの活動の状況 および、募金のお願い

 野生動物救護獣医師協会ではスペイン北西部沖でタンカー沈没・漏油事故に伴いスタッフ及びボランティアを派遣いたします。つきましては活動資金の援助をお願いいたします。
  郵便局口座番号: 00120−2−350855
  口  座  名: 油汚染生物救済募金
保温テント
保温状態に鳥を保つ仮設テント。ボランティアが設営中。

 また、スペインでも、いろいろな団体が援助を求めている。

 SEOのボランティア募集、募金ページ
 市民団体、NUNCA MAIS(二度とごめんだ)のHP
 上記NUNCA MAISを含むボランティア関連情報 
 募金を募る各団体の口座一覧のページ

関連ページ:
IFAWのプレステージ号事件での海鳥救護状況レポート(英語)

スペイン鳥類研究所SEOのプレステージ号事件関連記事(スペイン語)
スペイン鳥類研究所SEOのプレステージ号事件関連記事(ボランティアによる日本語訳)

 
ガリシア海岸

 2003年12月28、29日に撮影されたガリシア海岸の状況です。 こちらからご覧になれます。

「 プレステージ号沈没の1ヶ月半後の12月28日、29日にガリシア海岸のコルベド(Corrubedo)カルノタ(Carnota)付近を視察。 海岸線はまだまだ重油に覆われ、作業は難航していた。 一見遠目には被害の少なそうな海岸でも近づくと被害の爪痕がまざまざと感じられる。」



2002年12月21日  レポート: 東垣 薫 
写真提供:WRV 斎藤 聡 獣医師 

 


 

 

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