留学の秘訣教えます


15. 安全な留学生活を過ごすために

 “またか…”といわれそうな題なのだが。
今まさに渡航を控えている方は、友人、家族からさんざん“スペインは強盗の多い国らしいよ!”“危ないらしいから気をつけて!”と言われてうんざりしていることだろう。

 しかし現地在住者としてあえて言わせてもらえば…“さんざん脅されて来て下さい!”という感じなのだ。 近年、邦人の犯罪被害届件数が随分減少の傾向にあるとはいえ、だからスペインが安全な国になったとは言い難い。 長期滞在者は現地に慣れていることもあり、犯罪に遭うことも少なかろう―というのは大きな間違い。 その滞在が1週間だろうが、1年だろうが、不幸にも犯罪に遭う確率はそんなに変わらない―というのが私の印象だ。

 まずはこのサイト(@Spain)の旅行に関するコラム中にある、“治安”に関する情報コーナーにしっかりと目を通していただきたい。 詳細にわたってアドバイスが掲載されており、スペインを旅する上での、安全管理に関する注意事項はすべてここに網羅されている。

 そして上記のコラムに付け足す形で、現地で生活をする上での注意事項をいくつか書いてみた。 今までの実例を挙げての説明になるので、少々“脅し”ともとれなくないが…。

● お金の管理

―ステイ先での貴重品管理

  (例1)

 ステイ先で財布に入れていた紙幣がしばしば抜き取られる。 ホスト家族は年配の夫婦で、訪問者はほとんどおらず、同居者は一緒に来た日本人学生のみ。 二人で気をつけていたところ、どうやら入浴中などの隙を狙って主人が部屋を出入りしていた。 スロットマシーンにはまったあげくの犯行らしく、ホストマザーに尋ねたところ泣き崩れてしまって話にならない。

  (例2)

 ピソに同居のスペイン人カップルはとても親切そうだった。 スペイン語がほとんどわからないので、ATMでの現金引出しの際に一緒に来てもらい、手取り足取りで教えてもらって感謝。 しかし帰国後、かなりの頻度で覚えの無い金額が何者かによって引き出されていたことがわかる。

  (例3)

 苦労して探してきた激安値段のピソに入居。 最初は問題なかったが、大家(同居の無職の女性)の奇怪な言動が目に付くようになる。 他の同居人も何の職業をしているかわからない人ばかりで、“○○貸して”のお願いがやたら多い。 そのうち自室に置いていた小銭に始まり、腕時計、ラジカセ等が無くなる。

 非常に残念なことなのだが、ホームステイ先、学生ピソ内で盗難に遭ったという報告は、数は少ないものの、受けている。 ステイ先を紹介する語学学校や大学はそれぞれある程度の環境管理チェックを行ってはいるが、もちろん完璧なものではない。 なぜなら箱となる住居環境のチェックはできても、そこに住む人間は不動産ではないからだ。 人の個人的事情というものは変化するものであり、それを第三者が管理することはできない(例えば例1のステイ先は以前、評判の良い所だったとのことだ)。 なおかつ紹介先機関はこれらのトラブルに対して責務を負うところではない。

 私たちができること―まずはお金の管理だろう。 自室とはいえ、目に付きやすい所に現金や貴重品をおかない、ということにつきる。 例3の場合、本人の責任だとしかいえないのだが、激安家賃のピソに住みながら、ブランドものの時計や洋服を身につけ、しょっちゅう旅行に出かける外国人が、“激安家賃のピソにしか住めない同居人”にどんな印象を与えるか想像できなかったのだろうか。 とにかく“安い学校、安いピソ”で滞在費を安く上げようという方は近年多い。

 しかしデフレの影響もあり、良いものを格安値段で買うことができるようになった日本とは違い、スペインはまだまだ“安かろう、悪かろう”の基準が残っている国なのだ。 国の事情が違うこと、そして貧富の差、社会階級の差というのが目に見える形で存在している国にいるのだということをはっきり認識するべきだろう。

―友人、知人とのお金の付き合い

 

(例4)

 一人暮らしで寂しいこともあり、バールで知り合った人達をよく自宅に招待していた。 知り合いは多くなっていったが、“○○に行こう”と誘われていっても、旅費や食費はすべて案内料としてこちらが負担しろということになる。 そのうち自宅に置いていた現金が無くなる。

 こちらがまだ現地の生活に慣れず、言葉に不自由な時、現地の人にしてもらったちょっとした親切が身にしみる―というのは、誰もが経験することだろう。 例2の被害者のケースも、何も気づかなかった当初はいい話であったが、カードの暗証番号まで教えてしまった不注意から、なんとも後味の悪い思い出を作ることになってしまった。

 例4の被害者は、最初“現地の友人が多い”と自慢していたのだが、よくよく話をきいてみると、あやしいバールで知り合った酔っ払い常連客やら、訳のわからない連中にどんどん奢り、自宅によんでいたらしいことがわかり、そんな連中にとってはまさにカモネギの状態だったのだろう。

 ことわっておくが、スペインは悪い人が一杯!の国ではない。 お金のトラブルで人間関係が簡単に壊れてしまうというのはどこの国でもあることだ。 海外では“外国人である”というステータスで、いろんなクラス、職業の人間と触れ合うチャンスがある。 それは自分の視野を広げる上でよい経験になるが、お付き合いの上で、どこにリミットを設けるか―はっきりした本人の意思判断が必要であると思う。 いくら親しくなった人でもお金のことは喋らない、お金の貸し借りはなるべく避ける、などは基本的なこととして心に留めておきたい。

● ナイトライフ

 スペイン語レッスンは授業の中だけでは終わらない! バールやクラブで知り合ったスペイン人と交わす会話で実践練習だ!ということで、せっせと夜の街に繰り出す方が多い。

 夜の遅いスペインは深夜も街中が賑やかなので、さほど危険を感じないかもしれないが…女性の場合特に深夜の帰宅はタクシーで、というのが常識だろう。 そして自宅のピソに入る際、後から一緒に入ろうとする人は絶対に入れないこと。 同じピソの住人を装って一緒に侵入し、暴行窃盗を働く、というのは典型的なレイプ犯の手口だ。 できればタクシー運転手に“エレベーターに乗るまで少しだけ待っていてもらえますか?”とお願いしたいし、気の利いた運転手であれば言わなくてもしてくれる。

 当然ナイトライフに付き物はナンパ。 特に女性は声をかけられる機会が多いことだろう。 海外滞在生活、特に渡航直後というのは環境の変化も手伝い、軽い躁状態に居る方が多いので、出会いの成功率も高いのだろうか?

 いわゆる死語でいうところの海外での“アバンチュール”体験談を聞く機会も少なくない。 この辺は読者が成人であることを踏まえて言えば、
「自己責任でお願いします。」
というコメントしかないだろう。 ただし、相手が
「もしもこの人が日本人だったらヘンな奴、と思ったらこっちでもヘンな奴」
という大前提ルールはぜひ念頭に置いてもらいたい、とも思う。 その国の言葉が不自由である―ということは、相手がどんなクラスの人間なのかという判断もつきにくいということなのだ。 それだけリスクを踏んでしまう可能性も高いことも忘れずに。

 そして興味のないお誘いはきっぱりと断ること。 はっきりと断ることができないでいるうちに、情熱的とただのシツコイを履き違えた粘着質の男に付きまとわれ、半泣きで当事務所に相談に来る女性というのも今まで一人ではなかったのだ。 ビシッとした態度でNOといえる強さ、毅然とした態度、というのもまた女性の美しさの1つ。 ぜひ身に付けて欲しいものだ。

 NOといえなかったばかりに、とんでもないセクハラ被害に遭った例もある。

 

(例)

 ピソの同居人の彼氏がよく遊びに来る。 話の最中によく肩や頭、髪を撫でられる事があり、少々気になっていたが、こちらのコミュニケーション方法の1つかと思い、笑ってごまかしていた。 しかしそのうちに執拗に関係を求められるようになり、やんわり断ると逆ギレされ、家を出るように責められる。

 「必要以上の異性へのボディタッチはどんな国でもタブー」…なのだが。
この方の場合、日常の挨拶でキスする位の国なのだから、ボディタッチも普通に行われるものと勝手に思い込んでいたらしいが、それでもなぜ不快なことをされて最後までNOといえなかったのだろうか。 面と向かって相手を否定することを良しとはしない教育のせいで…と簡単に説明できるかもしれないが、一歩間違えば性犯罪の犠牲者となってしまうような場面で、それでもNOといえない―と言うのは、はっきりいって自己の安全管理の甘さとしかいいようがない。 繰り返しになるが、ぜひ状況をよく判断し、問題があるならばすぐ第三者に相談するなどの対策を迅速にとってほしい。

● お酒はほどほどに

 ユーロへの転換以降、物価上昇の一途をたどるスペイン、といわれながらも、まだまだ酒類の値段は日本に比べて随分安い。 バールやパブの軒数も非常に多く、日中からビール、ワインを安い値段で楽しむことができるというのは、酒好き人間にとってはこたえられない環境だ。 ここで飲酒の害を今更説明するでもないが、特に若い学生の方には、ぜひ飲み方には注意して下さい、と呼びかけている。

 チュピートと呼ばれるお猪口サイズのグラスのミニカクテルは、安くて飲みやすいというので、随分人気者なのだが、もちろんアルコール飲料であることに注意。 ジントニックやウィスキーコーラなどのロングドリンク類のアルコール配分量は日本のそれに比べて随分多い。 開放感と勢いに任せてどんどん飲んでいると大変な目に遭うことは目に見えているだろう。

 週末のフィエスタで飲みつけない酒をあおって急性アルコール中毒発症、倒れて救急車を呼ばれるはめになる、転んで顔面挫傷、歯医者に高額の治療代がかかった、酔っ払いの喧嘩に巻き込まれてボコられる―なんてのはまったくいい土産話にならないのだ。 くれぐれも気をつけて欲しい。

 海外にいるのだから…というのではない。 どんな場所にいても自分の身の安全を管理するのは自分しかいないのだ。大使館が、警察が、学校が何かしら助けてくれるといっても、あなたの身代わりになることはできない。 海外での冒険チャレンジ、大いに結構!でも安全管理、状況判断はきちんとね!というのが、これから渡航される方にぜひお願いしたい老婆心の一言なのである。

 

後藤 美智子
留学の秘訣 《目次》 14. 学生ピソ相談受付日記(2)


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