留学の秘訣教えます


14. 学生ピソ相談受付日記(2)

某月某日
 ホームステイから学生ピソに転居して何週間目かの男性がやつれた青い顔で来訪。 風邪気味ということらしいが、それにしても頬がこけすぎ。

「君…ご飯ちゃんと食べてる?」
「ええ、今日もパスタ食べました。」
「昨日は?」
「え?マック。その前は…やっぱりパスタ。」

 …恐れていた通りというか、この方は私が名づけるところの“留学初期栄養失調症候群”と判明。 要は学生ピソに入居して自炊を始めたものの、買い物の仕方や台所の勝手がわからず、なおかつ自炊の仕方もろくに知らないために、ファーストフードやら簡単なパスタ、サンドイッチでお腹を膨らますことを繰り返す。 最終的には何度も風邪にかかったり、長引く下痢症状を繰り返したり、要は抵抗力のない体を引きずりながら鬱な気持ちで通学することになる。

 ここにきて料理ができない、という人は非常に多い。 そしてその多くの人が必ず“自炊経験はあるのですが…”と答える。 ただし“自分が必要な材料と調味料が揃えば”とは誰も言わない。 そう、こちらには日本のコンビニはないし、もちろん日本風の気の利いたインスタント調味料などは売っていないのだ。 今まで何度、

“パスタソースがないのでミートソースが食べられない”
“ドレッシングがないのでサラダが食べられない”
“炊飯器がないのでご飯が炊けない”
といったおバカな相談を受けたことだろうか。

 未だに料理ができないのは男性に多い、と思っている方もいるだろうが、性別はまったく関係なし。 女性になると“野菜をたくさんとらなきゃ”ということで毎日野菜炒めやらサラダばかりを大食する。 もしくはお菓子でご飯を済ませてしまう。 数ヵ月後に“スペインの気候があわないんでしょうか…”ということでやれ肌が荒れた、具合が悪い、生理が止まったと騒いで駆け込んでくる方が多い。

 私はプロの栄養士でもみのさんでも何者でもない。 ただ人間に必要な糖質、炭水化物、たんぱく質、ビタミン類の4大栄養素をバランスよくとらないと具合が悪くなることくらいは知っている。 しかしただそれだけだ。 そんなレベルの私が、健康食品やサプリメント、グッズを含めてありとあらゆる健康情報があふれている日本から来た方に“お肉やお魚、卵を毎日食べましょう”、“清涼飲料水でなくて、お水をこまめに、たっぷり飲みましょう”、“スペインはお野菜が安いんですから多めに摂って”となぜレクチャーしなければいけないんだ? この場を借りてついグチってしまうのも、本当に基本的な自己健康管理ができずに具合が悪くなった方の病院付き添いという仕事が結構多いからだ。

 学生ピソで自炊した方が安く上がるということで、渡航される大半の方がこのタイプの宿泊施設を希望されるのだが、基礎生活能力がないことにはかえって高くついてしまうということも知っておくべきだろう。

 食材を買う勝手がわからない、というのはこちらでの生活を始めてまず経験することだろう。 肉や魚、野菜まですべてキロ表示。 それも塊でショーウィンドウにドサドサ置いてあるばかりで、まったくどこの部位かも区別はつかず。 パックにきれいに入った“カレー用牛肉”だの“刺身盛合せ”に慣れているこちらとしてはどこから手をつけていいのやらさっぱりわからない。 キロ表示に従い、中には最初すべての食品を一キロずつ買っていたというツワモノもいる。(何を隠そう、この私だ)

 言葉さえままならず、生活習慣の違う外国で暮らし始めることは誰にとっても苦労と戸惑いの連続。 しかしその苦労を、大金を払ってでもわざわざしにきたのが私たち留学生じゃなかったのだろうか? 肉の買い方がわからない? 肉屋のおっさんに聞こうじゃないか! 魚屋のおばちゃんにレシピを聞こう! ご飯の炊き方? 3回失敗すれば炊けるようになる!そう、あなたは買ってきたマックバリューセットを自室に引きこもって食べるためにわざわざスペインに来たわけではないのだ!

 本人的には守りに入っているつもりなんだろうが、体は危険にさらされ、面倒くさいといって、生きたスペイン語を学ぶチャンスを自分で踏み潰しているにしか過ぎないことを早くわかって欲しいのだが。

 そしてご子息にせっせと大量のインスタント食品を仕送りしている(中には日本米まで送っている方もいた)親御さん! 次回はぜひ基礎料理本とお醤油一本だけにしてあげてくださいね! そのほうがずっとお子さんの為になりますから。

後藤 美智子
留学の秘訣 《目次》 13. 学生ピソ相談受付日記(1)


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