留学の秘訣教えます


12回 ホームステイという滞在方法(2)

 ひどく不定期な連載にもかかわらず、このコラムに対する感想やご質問を頂く事がしばしばある。 特に前回の記事に関しては、これから渡航を考えていらっしゃる方々から「参考になりました。」というメールを多く頂き、執筆者としてのささやかな幸せをかみしめた次第だ。 さて、これらの頂いたメールの中で質問を書いてくる方もいらっしゃったのだが、その中で一番多かったのが、

「ホームステイ先に失礼がないよう、やってはいけないこと、マナーなどを教えてください。」

という質問だった。

…私事ながら日本からはなれてはや○年、この言葉につくづく日本人の素晴らしさを感じる。 お金を払って入居するとはいえ、それでもよそ様の家庭に入るのだから礼節をわきまえようという心構えを多くの方が持っているのだ。 もうこれは世界に誇れる国民性じゃないか!と知り合いに力説したところ、「いやいや、そうとも限らないよ」と反論されてしまった。 相手の言い分はこうなのだ。

---日本の本屋さんに行くと『冠婚葬祭マナー集』だの『正しい手紙の書き方』だのハウツー本が溢れているでしょ? あれはね、うちら日本人そういうのが好きだからなの。 学校の朝礼に始まっていろんな儀式、挨拶の言葉、神社での正しい参拝の仕方からご焼香の仕方までね。 儀式、規則、制服なんてものまでもうひっくるめちゃうけど“型”みたいなもん、まあ便利ではあるでしょ。 だってそれに従うことで“基本的な”“一般的な”社会基準をクリアしてんのが目に見えるんだから安心だよ、こりゃ。

 でもそれって海外の文化の違う人とのコミュニケーションの場に持ってった時にどうかな。 まず日本式の型は通用しないのになぜ探す? それに習慣って人それぞれだから、やっぱ先方に直接聞かなきゃ分からないことでしょう? でね、それをしないうちから日本人に聞いて何になるのかな? なんか意地悪な考え方なんだけど「こうしときゃ無難だろう、問題ないだろう」っていうのを探すウラの気持ちが見えてきちゃうのよ。

 で、現地の人には聞かないわけ、もう知ってるんだから。そうやってくと “礼儀正しいけど、全然しゃべらないんで何考えてるんだかわからない日本人” っていうのができちゃう。 最悪の場合は、本人が予想していたパターンと違って、ステイ先が本人のマナー違反をとがめたら逆ギレしちゃって、“礼儀正しくて何考えてるんだかわかんなかったけど、出て行くときに急に怒り出した日本人” ってのもできちゃうのよ。---

…きつい…まあお酒が入っていたこともあるけれども、かなりきつくてするどい意見だ…その晩は更にこの知人の“型文化”糾弾は続き、紋切り型の結婚式のスピーチに始まって学校の制服にまつわる意味のない規則がやり玉にあげられ、果てはそうめんにのっている缶みかんまでが標的となって見事に散ってしまったのだった。

 なんだかこの挿話は本題からすっかり外れてしまったような感もあるのだが、あえて載せたのは、この意見にも一理あるなーと思ったからだ。 ホームステイ先での問題に関する相談を持ち込まれた場合、その多くに対する私自身が出すアドバイスが「ご家族に直接聞いてみてはどうでしょう」というもので終わる事が多い。

 その相談者のほとんどが事前に現地情報を詳細に渡って調べているにもかかわらず、なぜこうなってしまうのか。 その理由は最後に述べるとして、まずは皆さんにリクエストを頂いたことにお応えし、基本的なスペインでの生活習慣の中で少し日本とは違う、とまどうであろう部分を指摘して以下に書き出してみた。

  ご参考になれば幸いである。

●食事について

 スペインの朝食は一般的にごく軽いものが多い。 コーヒーや紅茶にトーストやマドレーヌ、そしてせいぜい果物やヨーグルトがつく位。 日本のように朝からベーコンエッグやサラダなどが出ないのが普通。 当然お昼前には皆お腹が空くため、休憩時間に抜け出してバールでちょっとしたものを食べているわけで、午前11時頃などは各バールでタパスラッシュが見られる。 この朝食のスタイルは慣れない方もいるだろうが、けっしてステイ先がけちっているわけではないのでご理解を。

 1日のメインである昼食は午後2時から4時頃。 大抵はスープやサラダなどの前菜にメインディッシュ、デザートという形になる。 日本に比べて魚の出てくる回数は少ないし、野菜の量も少ないが、油を使用する量、1人分の量はハンパではない。一方夕食は10時頃にごく軽いものが出てくる。 サンドイッチやスープ、サラダなんかのことが多い。

 ホームステイ滞在の場合、食後の片付けはすべて家の方にまかせてしまって一向にかまわない。

 食事に関しては特別なマナーがあるわけではない。 あえて挙げるとすれば、食事が急に要らなくなった時など、一本電話連絡を入れるべきだろうということぐらい。 あとは口に合うかどうかの問題だろう。


●水まわりと電気について

 日本では、まず毎朝洗濯機を回すことから主婦の仕事がはじまるわけだが、こちらでは週に1回もしくは2回、まとめて洗濯をするのが普通。 シャワーは深夜を避けて、せいぜい15〜20分程度というのが常識。 バスタブに浸かるのは週に1度。(これは交渉次第) 電気をこまめに消し、サロンなどはスタンドライトの灯りだけともして、全体的に部屋が暗いというのも普通。

 最近は日本も節約モードが常識になりつつあるものの、なかなかこれらの習慣には慣れない、という方が多い。

 実際日本人カップルにガスト(諸経費)込で家を貸したところ、電気、水道代共に今までの3倍に跳ね上がってびっくりした…といったような話を何度か聞いたことがある。

 以上のことは日本とは違うけれども、スペインでは普通のこととして認識しておこう。 中にはバスルームに時計を持って行くことを強制する、勉強していると勝手に電気を消す、なんてことをするステイ先にもあるが、常識から外れているのでその場で文句をいってよし。


●他人の家でのプライベート

 一つの部屋を提供されたということは、他人の家であってもその部屋はあくまでもあなたのプライベートな空間。 ノックなしに家族が出入りすることはタブーだ。 しかし、万が一のトラブルや誤解を避けるために、貴重品や現金を放り出して置いておくことは避けたい。 また反対に、だからといって自分の部屋はどんな風に使ってもかまわないというわけではない。 もちろん清掃は料金に含まれているが、汚し放題にする権利はないのだ。

 友人の訪問を受けるときもホームステイ先にそのことを前もって言っておくべきだろう。 家の出入りに関して基本的に大きな干渉を受けることはない。 夜出かけて遅くなる時、旅行で何日か家を空ける時などは一言声をかけるなどした方がご家族も安心するだろうし、後々の誤解も避けられる。

 以上、ホームステイ先で気付くであろう、日本と違うスペインの一般的な生活習慣ということで書き出してみたものの、意外と少ないような気がしてきた。 これではマナー集でも何でもない。 では頂いた質問 “やってはいけないこと” は何かと考えてみたのだが、結局は

「直接訊かない、黙っておいて後で文句をいう」

だろう。 確かに慣れないスペイン語でものを尋ねる、自分の意思を伝えるというのは大変なことだ。 なおかつ否定的なこと、“したくない、して欲しくない” を伝えることは非常に難しいと感じるだろう。

 しかし留学カウンセラーの立場から言わせてもらえば、これをしていればここまで事がこじれなかったのに…という問題を扱うことが非常に多いのだ。

 なるべく最初からトラブルを避けたい、ファミリアをうざいと思うような関係になりたくない、という気持ちは分かるが、それが強い故に相手とのコミュニケーションをはかることからさえも遠ざかってしまうのはどうだろうか。

 ここでいうコミュニケーションというのは情報収集をすることでも、マナー集を読むことでもない。また無理に笑顔を作ったり、相手に気に入られようと四苦八苦することでもない。 相手を解ろうとし、自分を解って貰おうとする気持ちの働きかけのことなのだ。 衣食住を共にする人に対して、それを怠る事が一番の無礼であり、“やってはいけないこと”なのではないだろうか。

 うまく相性のあう家族に巡り会って長期間ホームステイをしているという人に、うまくやっていくコツを聞いてみると、どの人の意見もほとんど同じ、“もめる事承知で言いたい事は言って、後々に持ち越さない”、“相手に適度にほっといてもらう距離感を作る” というものだった。

 結局他人同士の良好な共同生活のためのコツってカップルであれ、家族であれその形も、それに国籍も関係ないもんなのねーと改めて感心した次第だ。



後藤 美智子
留学の秘訣 《目次》 11.ホームステイという滞在方法(1)


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