留学の秘訣教えます


10. 持っていくものがたくさん!

 いよいよの出発前日の深夜12時、だったりするのだ。部屋にはパッカリ開いたトランクと体重計、その周りに洋服やらなにやら。そればかりじゃない、お気に入りのCD、数々の書類、100円ショップで買った便利小物、近所のおばちゃんがもってきてくれたお餞別の紀州梅干パックと日本茶、ホームステイ先のお土産用に買った浮世絵ハンカチセットなどなどが賑やかに散乱している。横には"留学用荷物チェックリスト"のページを開いた留学ガイドブック。大量にうずたかく積まれたモノたちに囲まれてこっちは半泣き状態、まだお風呂にも入ってない…。

 白状するが、はるか昔、私自身の初めての留学出発前夜がこうだったのだ。いくら"現地ですべて揃います"とか、"荷物はコンパクトに!"と口酸っぱく言われてもまったくその貴重なアドバイスを聞いていない自分がいる。なぜかって?初めての海外留学、それも行ったこともない、言葉も通じない土地に最低一年滞在するっていう自分にしては大それた計画を立ててしまったからだ。その「大それた」という部分がなぜか急に出発前夜になって"太字下線付きフォントサイズ72"に成長してしまっていたのである。余裕をもって準備をしていたつもりなのに、何か大切なものを忘れているようなあせり…今となっては遠く懐かしい思い出、あの時の不安ではちきれそうだった自分がいじましく見えるのだから、人間どこまでも図太くなるもんだ。

 このコラムを留学出発直前にご覧になっている方もいらっしゃるかと思う。そしてその中には海外留学が初めて、という方も多いことだろう。今回はそんな方たちの肩の凝りをちょっとでもほぐせたら−ということで、「出発直前のアドバイス」のようなものをまとめてみた。


● 2週間程度の旅行準備で充分


 滞在予定期間が半年や1年と長くなる程、持っていく生活用品、特にかさ張る衣服の量の目安がわからなくなることだろう。結論からいえば、大体2週間程度の旅行用の準備で充分。こちらに来た留学生対象にアンケートをとってみたところ、「そんなに持ってこなくてよかった物」のナンバー1が"衣類"。現地で購入する楽しみもあって、結局せっかく持ってきたのに一度も手を通さなかった洋服が何枚もあるんです、という話をよく聞く。

  ちなみにナンバー2は"パーティー用の服やスーツ"。学生同士の気軽なパーティーばかりで、フォーマルなスーツは結婚式などに呼ばれない限り着る機会もない。そして衣類だけに限らずタオルだのシャンプーだの生活用品の大量持込みは、いずれ知り合いに配布の運命をたどるもの。よほど辺鄙な所に行かない限り、生活用品がなくて困ることはないのだから控えめに。


● 大量の日本グッズはいらない

 これも実はいらなかった物ランクの上位を占めているもの。なぜか未だに"海外留学"というと、ホームステイ先に暖かく迎えられる留学生、おみやげにと持ってきた日本人形に歓声を挙げて喜ぶ家族…という風景を想像してしまうのかもしれないが、よく考えてみると皆が皆、こけしや浮世絵カレンダーが好きとは限らない。その証拠に、よく日本人留学生を受け入れるホームステイ先にいくと、ダンボール箱一杯に似たような日本グッズ、特に置物系が押し込められて放置してあったりする。もうそろそろ日本文化紹介を浮世絵Tシャツやこけしの配布ばかりに頼るのをやめてもいい頃かもしれない。

  滞在の後(いきなり初日からのプレゼントは期待されていない)、本当に気持ちよく過ごすことができた、ということであれば、コンパクトで、できれば消費できるものをプレゼントしたほうが、気が利いているのではないだろうか。日本製の文房具やお菓子(和菓子に限らず、コンビニで売っているお菓子なども意外と評判がいい)、ハンカチなどなど。日本製でなくても小さな花束、チョコレートなども喜んで受け取ってくれるだろう。感謝の気持ちを表したいのであれば、それこそ物でなくても、カフェでお茶一杯ご馳走することだって喜んでもらえるのだから。

 また日本風のおみやげと同様に、「これから行くホームステイ先に挨拶の手紙送付」という習慣もあるが、特にこれも必要なし。大切なのは何日の何時頃到着するかということをはっきり学校を通して伝えておくことのみ。反対に、滞在した後(もちろん快適に過ごすことができたホームステイ先相手の話だが)、クリスマスカードなど送るのは結構喜ばれる。これから来る、見知らぬ人からの形ばかりの手紙より、一緒に生活した人からの近況連絡の方がより親しみが湧くのだろう、大切にアルバムにとってあるおばあちゃんなんかがいたりする。


● 忘れがちだけど必需品


-しっかりした辞書、日本語のスペイン語文法書
 何をいまさら…と言われそうだが、長期の留学にもかかわらず、未だに旅行用程度の小さい辞書しか持ってこない人が多い。初級クラスにいる時はまだそれでも間に合うが、レベルが上がるにつれて、調べても載っていない単語の連続でいらいらすることは目にみえている。少々重くてもしっかりした辞書を持っていこう。 そしてあたりまえだが授業はすべてスペイン語ですすめられる。難解な文法解説の理解に行き詰まった時に、参考にできる文法書が1冊あると重宝する。

-日本紹介のためのお助け本

 インターネットでの検索でほとんどの情報は手に入るものの、要領のいい説明の仕方など参考にするために1冊もっていくと便利。日本の風景の写真集なども、目で見て分かってもらう文化紹介のためのツールとして、また最後におみやげとしても活用できる。

-その他もろもろ
 持ってこなくてもいいもののリストが長い割に、必需品のリストは意外と短い中、耳掻き、爪きり、スリッパ(初日から必要)は、なぜか忘れがちなものベストスリーにあがった。日本食品は確かに重い思いをして持っていっても重宝するものだが、すぐ使ってしまうインスタント食品を沢山抱えていくよりも、お醤油、だしや海苔など基本的なものをコンパクトにまとめて持っていくほうが賢い。たまに友達を招待しての日本食パーティーはいい文化紹介の機会になることだろう。


● 郵便宛先住所に気をつけて

 日本から小包を送る場合には、できれば学校住所宛にしておくと安心。学校管理のピソでは郵便箱の使用を禁止しているところもあり、せっかく到着通知が届いているのに郵便箱の鍵がなくて困った、という相談を何度も受けている。また何らかの事情で荷物到着前にホームステイ先を変更した場合、到着通知が行方不明になってしまった、というケースも多い。なお、宛先には学校名の隣に必ず自分の名前を明記すること。  日本の家族に頼んで後から荷物を送ってもらう場合には、あらかじめ荷造りしておこう。国際郵便の発送に家族があまり慣れていない場合には、宛先住所を書いた紙を何枚かコピーして渡しておいて、発送の際に貼るだけにしておくといいだろう。  船便で小包を送る場合には内容物に注意。たとえば1年間分用意した化粧品など、"新品未開封、同じ物が大量にある"というのは税関でひっかりやすい。またパソコン機器も同様。一度課税通知のお知らせが来た場合、いくら個人使用ということを説明しても、関税および消費税を支払わずに荷物を受け取ることは非常に難しい。大切なものは手荷物で持っていくか、EMS便等を利用しよう。


● 見送ってくれる家族のために

 あなたが髪を振り乱して荷造りをしている後ろ姿を見つめるご家族は、本人の倍心配されているはず。それに本人留学中に荷物や書類の発送を請負ってくれるのもご家族なのだ。以下の2つはきちんと説明した上で渡しておくべきだろう。

−学校、滞在先の住所・電話やファックス番号・メールアドレスを明記したもの。

海外に電話をかけたり、荷物を送るのが初めての方も多いのだ。ただ学校のパンフレットと住所メモをぽんと置いてきました、だけでは、いざ連絡をしたいというときに随分混乱される方もいる。(ご本人と連絡がとれない!とパニックになって私共のところにくるご家族の電話が毎年何本かある。その多くが番号間違いや滞在先変更、携帯電話の期限切れによるものだ)連絡方法を丁寧に書いたものを渡しておくべきだろう。

−パスポートや保険証券等のコピー
その他通帳等の大切なものも、ひとつにまとめて分かりやすいところに置いておく。日本の口座の残高証明を送付してもらう必要がある場合には、そのための手順等もきちんと説明しておこう。


● そして最後に


 インターネットでの留学相談をしている関係上、お客様から渡航前日のメールを頂くことが多い。 "準備でばたばたしてどうしていいんだか…"、"何か絶対持っていった方がいいものを教えてください!"なんてことを悲壮な調子で聞かれる。そしてこの時こそ、という感じでつい私は小鼻を膨らませて返事してしまうのだ。 「大丈夫、パスポートとお金、替えのパンツだけ持ってきてください!」

  …前日まで半泣きになって荷物準備をしていた過去の自分はどこへやら、なのだが。いや、反対にあの時の自分を想い出すからこそなのである。自分で望んだこととはいえ、日常から切り離され、何ものにも属さない、アイデンティティ喪失の状態で、誰も知らない土地での新しい日常を組み立てていく―何とも大きなプレッシャーではないか!

 きっと私自身、あの出発前夜になって、今まであたりまえだと思っていた生活の流れが全て変わり、二度と取り戻せないかもしれないかもしれない不安にかられていたのだと思う。  お気に入りのCDやDVDコレクションを積んだ本棚。毎朝毎晩交わされる家族との何気ない会話。スペイン行きを目標にバイトに精を出していた自分。そんなに大きくないスーツケースに、それらの"日常"を入るだけ詰め込んで行きたかったのだろう。…まあ往生際が悪いといえばそれまでだが。

 そして今になって思うのは「古いものを手放すことで新しく得るものは大きい」ということ。ぼーっとして過ごしていたって人生は過ぎていってしまうし、いやでも変化は向こうからやってくる。それだったら、一発奮起で自分で変化をつけたって同じことなのだし、1年そこらの留守で無くしてしまう物というのは、その程度のものだったんだろう。―そんな結論みたいなものを出しながら、これから渡航される方にはぜひ繰り返しこう言って応援したい。「大丈夫。健康な体と好奇心一杯の頭だけ持ってきてください!」

 さて、渡航前夜にパニックになっていたあのン十年前の私は、その後どうしたかというと…。なんとかこうとかトランク一個にリュック1つとコンパクトに荷物をまとめた自分に満足しながら明け方就寝。しかし翌日、空港にわざわざ見送りにきてくれた親戚のおじちゃん、おばちゃん達に再びお餞別攻撃に会い、マドリード・バラハス空港には用意した荷物以外に、"梅の香巻"だの"雷おこし"だのがパンパンに入った大袋を抱えて降り立ったという、まったくいい例として自慢できない、オチをつけての姿であったことを告白しておこう。

後藤 美智子
留学の秘訣 《目次》 9.いよいよ申込


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