1.はじめに
スペイン現地にて、スペイン語と日本語のバイリンガル雑誌をつくってみよう、という目的で"あるば"という組織がサラマンカに作られたのが96年、そしてそれが日本人留学生対象のバックアップサービス事務所と変わって起動し始めてはや4年以上経っている。当初の目的であった雑誌作りは全10冊を出したところでストップしてしまったものの、事務所は現地日本人留学生の情報センターとしての活動を続けている…というと聞こえはいいかもしれないが、別称は「日本人留学生の保健室」。留学生活で起こる様々な相談受付が主な活動で、平均一日10人、多いときで20人の学生のコンサルタントを受けるのが私の仕事なんである。 今回頂いたこのコーナーで、この私自身の経験がこれから留学をしようと思っている方達、そしてすでに留学している方達のために、ほんのちょっぴりでも役に立てれば…と考えているのだけれども…どうだろうか?
語学留学ということ自体、どんどんお手軽なものになってきている。申し込みはインターネットで簡単にできるし、早い話、あとはパスポートとお金と航空券さえあれば、来週からでも現地でのスペイン語コースをスタートすることができてしまうのである。しかしながら、例えば"1年間スペイン留学!"と決めた時のドキドキ感は、"情熱のスペイン7日間ツアー申し込み!"の時のそれとは随分違うのだ。留学ガイドブックをめくるうち、すでに現地のカフェテラスで、欧米の友人達と楽しく談笑する自分の姿がちらついてしまったりなんかする。
しかしながら一方で、「こないだマドリードに行った友達がひったくりに遭って大変だったんだって…」とか「留学ノイローゼになる人って多いらしいよ」とか「帰ってから就職どうすんの?」とか、まったく人の不安を倍増させるようなことを言って来る素晴らしい友人や、親戚のおばさんなんかがいたりするのだ。そんなわけで結局最初の気持ちいいドキドキ感はやがて40%位トーンダウンしてしまい、楽しみ→でもいろいろ大変らしい→準備めんどくさい→失敗したらどうしよう→でも行くって言っちゃったし→まあなんとかなるかな→でも何かあったら→行ったらどうにかなるよねという、不安と期待の感情の入り混じったラビリンスに落ちこんでしまったまま、出発日を迎えることになってしまうんである。
こういう方のために、ここでは大きい声でいってしまおう。
「留学はすごく楽しい。 楽しもう!という気持ちがたっぷりあるんだったら。」
留学ということ自体、とても個人的な体験。確かに航空券を確保すれば現地まで連れて行ってくれるし、学校に入学手続きさえすれば、授業もしてくれるし、課外活動も用意してくれて、ステイ先までも紹介してくれる。それでもあなたの"すばらしい留学体験"はだれも保証してくれない。それはあなたの決断とやる気、そして一番大切な好奇心次第なんである。確かに実際行ってみたら、サイフはひったくられるわ、ステイ先のおばちゃんに電気代のことでがみがみいわれるわ、授業にはついていけないわなどなど、いろんな面倒くさいことがあるかもしれない。
でもこんな環境にいる自分を笑って楽しんでやろうという気持ち、そしてせっかくこの国にいるんだから、さんざんおもしろそうなものに首を突っ込んでみようという気持ちさえあれば、イヤなことの倍、おもしろいことを発見できるはず。そしてここに「大枚はたいてでも…」やる価値のある留学の醍醐味があるのだから。
今まで私共「あるば」の事務所を訪れてくれた人たちの数は計り知れない。渡航当初はパニックに陥って半べそをかいていた人が、やがて時間が経つうちに自分を取り戻し、積極的に新しい文化を吸収して、帰国時にはつややかなにっこり顔で挨拶にきてくれる時など、本当にこの仕事のやりがいを感じる時だ。このコーナー上では紙数の限りもあり、大きいことは出来ないけれど、せめて"こんなことをちょっと知っておくとスムーズにいくよ"というような、アドバイスを載せていければと考えている。それは私自身を含め、いろいろな方の留学体験や、各学校、大学関係者からホームステイ先のおばちゃんのコメントまで含めて、リアルなものにしてみよう。 そして最終的には
「留学は大変だけどすごく楽しい」
ということを理解して、今まで迷っていた沢山の人たちがスペイン留学に挑戦してくれれば…と考えている。
後藤 美智子
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