ちょっと前のわたしたち

【No.272】9月5日 Norie * 【No.273】9月12日 Taka
【No.274】9月26日 Meche

 

No.274

9月26日 Meche(京都)

夢のお話。

私はよく眠る。それは最近に始まったことじゃない。
子供の頃、お昼になっても一向に起きてこない私を、母は「死んでるかも」と
しょっちゅう心配していた。

体が弱かった私は、よく熱を出して寝込んでは幻覚や怖い夢を見た。
真っ白な空間が、一瞬にしてグチャグチャになる夢。
大きな大きな丸い重い石を、ただひたすら小指で持ち上げる夢。
子供のくせに、悪夢は結構シュールだった。
その反面、元気な時は、悪と戦うヒーロー戦隊の一員として、メンバーの1人に切ない恋心を抱きつつ、悪者をバッタバッタとかっこよくやっつける夢を見ていた。

大人になると、悪いことを覚えたせいか、ヒーロー戦隊として戦う夢は見なくなった。いつの間にか立派な悪の一員になってしまったけど、やっつけられる夢も見ていないし、シュールな悪夢も見なくなった。

そのかわり、オムニバス映画のように、1度の眠りでたくさんの夢を見る。
“海藻アパート”という変な名前の古いアパートを買ってみたり、小船の中で寝ている自分が流れてくるのを橋の上から眺めてみたり、とっても難しい数式を発見したり、最近あやしくなってきたスペイン語がぺらぺらだったりと、夢の世界は無限で、しかも私はとっても頭がよかったりする。

この間、こんな夢を見た。
お城の中を1人で歩いている。周りには誰もいないし何の音も聞こえてこないけど、私は少しも怖くない。 窓の無い、ただ薄暗い石の空間が続いている。 突然、誰かが私の腕をつかむ。 びっくりして振り返ると、ボロボロの服を着た男が笑っている。 恐怖で心臓がバクバクして、急いでその手を振り切って薄暗い階段を駆け上がる。 すると、目の前には深く明るい藍色の空が広がり、あの独特の乾いた風が吹いてくる。 ここはスペインなんだと思って私はとても安心する。 夢から覚めても、つかまれた腕はしばらく疼いていて、私は無性にスペインに行きたくなった。

夢の真意は分からない。 今の生活に疲れていて、どこかに逃げ出したいと心が訴えてるのかも知れない。

でもそんなことはどうでもいいような気がする。
だって私はあの日から、目を開けたまま夢が見られるようになったから。

今は遠いスペインを、日本のちょっと白い空を見ながら、夢見続けている。

No.273

9月12日 Taka(東京)

今年の夏はいっぱい泣いて、いっぱい笑った。
海ばかり行っていたせいで、いつのまにかよく日焼けした。

いっぱい泣いたのは、子供の頃からの1番の幼なじみが重い病気になってしまったか ら。 夏の陽射しがきつかったころ、不安で息をするのも苦しいときがあった。 入院前 の彼女を連れ出しては海へ行った。 松の木の陰に腰をおろして、ひたすら海を見なが ら話をした。
頑張っている人に「頑張って」とは言えず、心が痛かった。

彼女の父は、定年退職以来、自給自足の田舎暮らしに目覚めたと、畑を耕しいろんな野菜を作るのが日課になっていた。 でも、

「お父さんが、畑に行かなくなっちゃったんだよ、バカだよね。
だから、『私は大丈夫だってば!』って、思いっきり叩いちゃったよ」

娘の病気を知り、畑に水撒きに行く気力さえ失ってしまったお父さん。
そんな父の姿を見ていられず父を激励した娘。

強いな、偉いなと思いながら目頭が熱くなった。

私が言えたことはただ、
「1人じゃないよ」
だけ。 そして、この山を越えたら一緒にスペインに行こう!と約束した。

入院した彼女は検査詰めの日々をおくり、ついに7時間強におよぶ手術を終えた。
でも、病気の進行具合は、手術からさらに2週間後に判るというものだった。

手術の後遺症や今後の不安、いろんな問題を抱える彼女に、私は平原綾香の 「Jupiter」を贈った。鹿児島の海
鹿児島の海

♪ Every day I listen to my heart
ひとりじゃない
深い胸の奥で つながってる ♪

私はこの歌が大好きだ。
ホルストの惑星組曲「Jupiter(木星)」に歌詞がついたもの。  彼女はベッドで何度も何度も繰り返し聴いてくれたという。

結果が出たのはつい先日のこと。
手術は成功し、彼女の体の中にあった悪い部分は全て取り除くことができたという。
そして、病気の進行レベルも最悪ではなかった。
今後再発のリスクはあるが、とにかくひと山越えたことになる。

「Takaちゃん、食欲があって困るのよ〜。 ご飯が美味しい!」

退院したばかりの彼女から電話があった。
入院して痩せたかと思ったら1キロしか減ってなかったと。 でも、でかした!だ。

彼女はまた、再発防止の治療を受けるため入院する。
戦いは終わっていない。 でも、今回は笑って「頑張れ!」と送り出せる。
一緒にスペインへ行ける日も、遠くはないだろう。

彼女のお父さんも、再び畑に通いだした。
久しぶりの畑を前に呆然としたという。
「俺の畑が竹林になってたよ……」

自分の体をいたわってあげられるのは自分だけ。
皆さんも、体を大事にしてあげてね!

No.272

9月5日 Norie(バリャドリード)

 夏休みも終わりに近づき、いよいよ新学期が始まる。 我が家のチビは新入学。 就学時検診とか入園式とかは何もなく、相変わらず学校の玄関に張り出されるお知らせの紙が唯一の公式インフォメーション。 先日、7月末に予約しておいた教科書をデパートに受け取りに行って驚いた。 3歳児用の3冊だと高をくくっていたら、20%引きにもかかわらず合計75ユーロ(約1万1千円)もしたのだ。 「算数」が2冊。宗教の代わりに選択した「平和教育」が1セット。

 数字を見ると何でも、「ウーノ、ドース、トレース・・・」と歌ってしまう程度の子に算数の何を教えるっていうんだろう?とぱらぱらと教科書をめくってみると、まずは数字の書き方、読み方。 そして、多い少ないや大きい小さい、などの概念を学ぶらしい。

 お勉強についていけるかどうかはともかく、途中のページにシールがたくさんあることを、目ざといチビが見逃すはずはないから、授業で使うときまでにシールがなくなりませんようにと願うばかり。 あぁそれより、自分の教科書や持ち物を自分でかばんに入れて毎日持って帰ることなんてできるんだろうか。 あぁそんなことより、毎朝門で別れて、自分の教室目指して歩いていくことすら、うまく想像がつかないのだけど。

 心配だ。(苦笑)

 唯一の救いは、チビは案外人気者で、散歩していると必ずどこからか声がかかるということ。 一クラス25人を担任一人で世話が出来るとは思えないから、母性本能の強いしっかり者の女の子がお世話をしてくれるのかもしれないな。

 そうそう今日だって公園で、わからないとオウム返しで相手の言葉を繰り返してしまうチビにむかって、「マネすんなー!」と怒っている子がいて、あれあれと遠くから様子をうかがっていたら、「そうやってスペイン語を覚えてるんだ!」とチビをかばってくれる子がでてきて、うれし涙がこぼれそうになったのだ。 本人は、怒られたときもかばわれたときも、なんだか良くわかってない風ではあったのだが。

 親離れ子離れ。そういう季節ですね。

 

 

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