■夏のフラメンコ IN GRANADA
今年のグラナダの夏はきつかった。強烈に乾いた暑さだった。 雨が降らなかった。そして、未だに降らない...
一応、2週間お休みを頂いたが、先立つものも乏しいので特に何所にも行かずぶらぶらしていた。 幸いグラナダは海まで車で40分と近いので、気が向いたら、日帰りで海に行ってはイワシ焼きを食べて帰ってくるという気ままな生活を送った。
さて、たまにはフラメンコを離れて他のことも書こうと思いましたが、いざ書こうと思うとフラメンコの事が頭の中心から離れません。 本業だから仕方ないですね。(笑)
グラナダは、夏はフラメンコの企画が多いです。アンダルシア特有の中庭、パティオに設置された野外会場でのフラメンココンサートシリーズは、夏中企画されているし、アルハンブラ内のカルロス5世宮殿の中庭に設置された舞台も毎年詩人ガルシア・ロルカをテーマにしたフラメンコの作品が2ヶ月間に渡って公演されます。 その中のいくつかの作品や、舞踊家について書いてみたいと思います。
■作品名 DIALOGO DEL AMARGO マリオ・マジャ監督
これが、アルハンブラ内のカルロス5世宮殿で今年2ヶ月間に渡って公演された作品です。 グラナダの詩人ガルシア・ロルカのテーマは比較的簡単ではない。ジェルマの作品のように、不妊の女性の苦しみをテーマにしたものや、今年のディアロゴ・デル・アマルゴは人間は生まれた瞬間から死が約束されている、愛とは、その束の間の夢。というのが大筋のテーマです。
普通の監督さんがそれを舞台芸術として表現しようとしても、大抵は暗い、を通り越して、おどろおどろしくもなってしまうものが、マリオ先生は、逆にそのはかない愛の美しさを美しく表現し、でもやっぱり死はやってくるんですよ、と、人間の宿命そのものも伝えていて、うーん、やはり只者ではなかった。
特筆することは、先ずはそのマリオ先生の舞踊家としての才能の他に、(この作品ではマリオ・マジャは舞踊家としては登場しません)舞台監督としての才能である。 当を得た音楽も大筋はやはり彼が仕切った。 舞踊団は、監督にとっては不足の部分もあっただろう、とこれは私の想像。 主役のフアン・アンドレス・マジャとディエゴ・ジョリを除いてはである。
この作品は、スポンサーがグラナダ市といってもいいくらいのものだし、なんせ2ヶ月間ぶっ通しの公演なのでグラナダのアーティストをほとんど使って頂いたという訳である。彼がもっと大掛かりな予算で好きなように配役したらもっとすごいことになるのだろう。
作品は1部がフラメンコ舞踊。2部がディアロゴ・デル・アマルゴの作品という2部構成。 1部では、新しい舞踊技術を目立たないように取り入れながらも、本来のフラメンコ舞踊の美しさとエレガントさが滲み出る振り付けになっており、私はかなり斜めの位置から舞台を見なくてはいけなかったにもかかわらず、舞台構成や振り付けが良くわかったのには驚きました。
特にマリオ先生が過去から踊っている男性舞踊の力強さと美しさに関しては、古くから使われているステップに関しても新鮮に見せてしまう粋さだった。 男性達は昔からの伝統の腰の位置の高いズボンに短めの丈のジャケットを羽織ったスタイルで踊った。
2部での作品では、先に書いたように先ずは作品としての完成度の高さ。 そして、アマルゴを演じたファン・アンドレス・マジャはマリオ・マジャ、つまりは、マジャ家伝統の踊りを見事に踊りきると共に、役にも上手く入りこんでいた。 必見は、死のイメージの役を演じたディエゴ・ジョリである。 この方はマドリードでもいろいろなところで見て関心していたが、今回のこの役では本当に驚いた。
そして、その全体の力に引っ張られるように、グラナダのアーティスト達もそれぞれが光っていた。 その個性を光らせるのも監督の力なのだろう。 練習は途中で水も飲みにいけないほど厳しいもので脱落者も沢山いた。 でも、その成果、ここに有り、である。
これはオマケの話だが、今までこのアルハンブラ宮殿企画は素敵なのだが、なんせ宮殿の中なもので、バルが無いのが地元の人には辛かった。 1時間半とか2時間という公演時間中、スペイン生活に慣れた私達には休憩時間にバルが無いというのは非常に酷なことなのである。 ところが! 今年に関しては、なんとバルが有るのである! 私は本当に目を疑った! さりげなく白いテーブルクロスがかかったテーブルが庭においてあり、カナッペなどが注文できるのである。ガムやチョコレートは売っていない! なんてエレガント!!
アルハンブラ宮殿内にバルを作ってしまったのはマリオ先生がきっと初めで最後。 “バルにマイクロウエーブまであるぜ”と感心する旦那の一言には笑った。 いままでは、我が家でマリオ・マジャは失礼ながら呼びつけだった。 しかし、その夜から“セニョール・マリオ”になった。 そして永遠に...
■ふわふわブレリア SORAYA CLAVIJO
ソラジャ・クラビホ。 セビージャとパンフレットにあるが、今、住んでいるのがセビージャであって、ヘレス出身で間違いなかろう。 若手の踊り手には珍しくテクニックに頼り過ぎず、自分のやりたい踊り、自分の出来る踊り、自分のキャパを良く知ってる人だなと感心した。
コンクール向きの踊り手でもないのに、コルドバのコンクールでふわふわしたブレリアを踊って賞をもらったのが彼女なのだ。 私はその授賞式の時の不思議な存在が忘れられず生で見たいと思っていたのだ。 凡人が早く自分の才能を見つけて、可能な限りそれを磨いて光った感じだった。 とにかく好感が持てた。そしてその踊りには、普通ながらもヘレスの人のこだわりと、ヘレスの古いジプシー女性の踊りのスタイルも垣間見ることができるのだった。
特筆するのは、一緒のメンバーでやってきたホセリート・フェルナンデスの渋い応援の踊りと手拍子。 そして、その父、クーロ・フェルナンデスの踊りをしっかり支えてくれる古いフラメンコの人の歌でしょう。
■空手フラメンコ ファルーコとバルージョ
ファルーコとは、あの伝説の踊り手ファルーコの孫、ファルキートの弟と、バルージョはそのプリモ、親戚の子、つまり、ファルーコ一家グラナダ参上という訳である。 今、なにかと話題のフラメンコ界のプリンシペ、ファルキート様の弟という訳で、当日の入場券は売り切れでも欲しがるファンで大騒ぎでした。 オマケに、そのファンの層というのが、グラナダ市、または、グラナダ近辺のジプシーの多い村からジプシーの女性達が全身水玉で押しかけたからすごい。 手拍子と歌が鳴り止まない。 ファルーコ一家特有のスピード感のある踊りが決まるたびに黄色い声援が飛びまくった。
私は最初から覚悟はしていたが、すでに真面目に舞台を見るのはあきらめ、どこまで空手フラメンコを見せてくれるかというのと、村のジプシーおねーちゃん達の反応を見て楽しむことにした。
ファルキートが一緒に来ているに決まっている。 だから「ファルキートにさわる」というのが彼女達の目的である。 彼女らの予想は見事に当たり、弟達に掛け声をかけるファルキートの声に反応して会場はざわつきまくった。 耳の良いねーちゃん達である。 2階席からファルキートは会場に手を振るといったサービスぶりだった。
楽しんでコンサートは終わった。 「ファルーコ一家ここにあり」を見せたのは流石でした。 終了してからも、ファルーコ一家の行く先々にジプシーねーちゃんの行列が後を絶たなかった。(笑)
■スマートな実力舞踊家 メルセデス・ルイス
流石2年連続で由緒有るコルドバのコンクールで優勝した女性だ。 テクニック抜群、表現力抜群、しかもさわやかな華もあるし、独特な世界も持っている。 スタイルも衣装のセンスも自分に合ったものを選んでスマート。 新しい舞踊技術がそれでもかなり目立ってしまうが、これはもう好みの問題だろう。 1時間の持ち時間の中で3曲フルに踊って、1曲はバタ・デ・コラのアレグリアスも見せてくれた。(長ーーいスカートで踊り、特別な技術が必要)
一番関心したのが、足音。早いスピードでもうるさい音は一つも出さなかった。 これも、流石ヘレス人ここにあり、を見せてくれた。 ここでの特筆は、やはりヘレスの歌い手、エル・ロンドロが良かった。 声の筆を2、3種類変えて歌うのには関心した。 古いものも、新しいものもなんでも来い、という感じで安定していた。 正調、マノロ・カラコル節を美しく歌ったのは忘れられない。
■フラメンコ知恵熱。
という訳で、いろいろ見て、最後の方は情報が多すぎたのか、夏バテなのか、1日中知恵熱がでてしまった。 体力回復にうなぎが食べたくなったが、グラナダではうなぎなんて手に入らないし、日本食レストランも無い。 しかたなく、アイスを食べて、寝て治ったのだから、知恵熱だろう。
あとは、これをバネに芸術の秋は、練習、練習、練習...
さよなら、さよなら、さようなら。
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